蛍光灯

 台所の蛍光灯が切れそうだったのが、ついに切れた。
 どうせそうなるにしても、この日だけは除けてくれたら、という日を
見澄ましたように曇天の朝。午後からは雨の予報。
 シンクとコンロのそれぞれのスポット照明で一、二日しのごうか。で
も、天井の蛍光灯の明るさには叶わないからなあ。
 蛍光灯を買ってから出かけることにした。この順番にすれば、雨の中
を帰ることになっても、蛍光灯を濡らさないかと気に病む時間は短くて
済む。
 幸い、午後も雨は降らなかった。
 私がリュックを背負ったウォーキングスタイルだったのは、手に持つ
蛍光灯が雄弁に理由を語ってくれたであろう。
 帰り際、ベンツおじさんから、服装のことは言われないが、
「それ、LED?」
 と聞かれる。
 違うと答えると、普通の蛍光灯なら、ここにたくさんあるから、言っ
てくれたらあげたのに、と言い、
「好きなだけ、持って帰ったら」
 うーん。
 この買ったのが切れる時まで置いておくのは場所塞ぎになりそうだし
なあ。
 一緒にいた女性は、自分の事務所のがちょうど一つ切れているから、
もらって行こ、とさっさと段ボールの箱を開ける。
 と、ベンツおじさん。
「LED照明に換える所のをもらってきたから、新しいのと古いのが混
ざってるけど、使ったらわかるから、まあ、ええやん。な」
 あ〜あ、そういうこと。
 私は、
「今度もらいます」
 と言ったが、もらうことはないだろう。
 台所の蛍光灯と相前後して、私の部屋の蛍光灯も暗くなり始めていた。
 黄味がかった陰々滅々たる暗さになっても、まだ切れない。
 寿命を待たずにさっさと取り替えたら、と理性は告げる。
 前回、天井に張り付いたタイプのその照明のカバーを開けるのに難儀
して、メーカーに問い合わせ、石鹸を染み込ませた布で噛み合わせる部
分を拭いたら取れると教えてもらい、それで解決したけれど、あの時に
かかった時間と手間と流した汗を思い返すと、容易には腰が上がらない
のである。
 それでも、その日に行く場所の近くに家電量販店があるとなったら、
その日に買え、という天からのサインではないか。
 観念し、脚立に乗ってカバーに手をかけた。
 あっさりはずれる。
 えっ。
 そして、蛍光灯の一本が本体との接合部から離れているのを発見。
 しっかり差し込んだら、元通り。
 交換したのが一年前なので、寿命には早すぎると思ってたんだけど。
 物は気づきをくれる。それを気分で無視すると、不運が大きくなる。  
 この世はそういう仕組みになっているのかも。