それはセクハラ

 あとで気がつくことは多い。
 前回、「旧知の知り合い」と書いたのは、正しくは「旧知の仲」。意
味はだぶるし無駄に文字数を使うしで、愚かであった。
 正しい解釈に気づいたこともある。
 ベルを鳴らして私達を追い立てた自転車の主を非難する言葉を友に向
かって言ったら、次に追い越しに来た自転車の女性が、そのとおりだ、
あれはいけない行為だと請け負って、走り去った件だ。
 彼女は、私はベルを鳴らしたりしない、と胸を張る気持ちでそう言っ
たのだろうが、そもそも自転車で歩道を我が物顔で走ってはいけないと
いう違反は犯している。それがわかっているから、後ろめたくて、会話
が始まらないようスピードを上げたのだろう。
 朝日新聞の七月十日の『声』の欄にイタリア人の女子留学生の投稿が
載った。
 レストランの接客のアルバイトで、客を見送る際にハグされる、ハグ
は親しい仲だけに許される行為なので、ニホン人には正しい異国文化を
学んでほしい、というような内容だった。
 私は思い出す。
 フランスで林間学校に同行した時、八十人ほどの生徒達の面倒を見る
専門ボランティアと、料理係に借り出された教員で、大人は総勢二十人
以上。寝泊まりする寄宿舎は同じだが、食事は大人と子供は別。
 朝食に降りた初日。
 あとから来た人は、先に長テーブルに座って食事を始めている全員と、
頬と頬を当てる挨拶をしてから、食べる物を選びに行く。
 なんとか真似をしたけど、私には拷問だった。
 人が多すぎたり、よく知らない人も混じっている時は、肩にこんな風
に手を置いて「おはよう」と言えばいいのよ、と教えてもらったのは、
つい最近のこと。
 その時は、翌朝から、入口で大声で「おはようございます」と言うと、
さっさと席に着くことにした。その国に住んでいればその国の文化を尊
重したいが、真似できないこともある、と心の中で言い訳して。
 さて、上述のイタリア人留学生。
 二十七歳の彼女の推察は甘いなあ。人が善すぎる。
 彼女にハグする客はみな男であろう。彼らは、一瞬でも、彼女と公然
と肌を触れ合わせたいのだ。
 そうではないと言うのであれば、彼らは接客の男性にもハグするか、
せめて握手しているか。
 自分に都合良く曲解して、酒の力と客という立場を悪用する、そんな
人間を許してはいけない。
 ハグの文化は、店員と客が対等の文化でもある。
「あなたは奥さんにハグしますか、そうでないなら、私にハグするのは
変ですよね」
 そう言って、凛と自分の身を守れたらいいね。