アンケートの信憑性

 七十四歳までは〈准〉高齢者、という提言についての新聞記事を読み
流せなかったのは、その根拠として、脳卒中などで治療を受ける人の割
合が大幅に減った、というデータが挙げられていたからだ。
 脳卒中と肉体の高齢化は比例するのか、と不思議に思ったのだ。
 そういう疑問に備えての、「脳卒中など」の「など」なのか。
 なんにせよ、病院に行くと目に入る圧倒的な老人の姿は、あれはまや
かしなの。
 そして、高齢者は何歳以上だと考えるか、と質問した調査対象者が六
十歳以上だと読むと、ずっこけた。
 意識調査はあくまで本人の自意識だが、誰だって自分のことには甘く
なるだろう。
 若い、仕事が出来る、誠実、嘘つき・・・。
 そういう判断は、他人がくだすもので、自分が言い張るものではない。
 ところが、この提言者の団体の一つが老年医学会だというので、さら
に頭が混乱した。
 私は、自然気胸で入院して、数年後にレントゲンを撮った時、医者に、
「順調に歳を取っていますねぇ」
 と言われた。
 内臓の写真でそこまでわかるとは知らなかったが、私は、にやっと頷
いた。
 医者はまともだ。現実から目をそむけない。それは安堵であった。
 だが、「その」医者は、と言わなくてはならないのだろうか。
 老年学会・老年医学会に名を連ねる人達は教授や理事長クラスの人ば
かりで、たまたま自分が健康面で脱落することなくその年齢まで到達で
きただけなのに、他人もそうであって当然だと考え、アンケート結果を
真に受けたのか。
 腑に落ちなくて、インターネット上でこの提言の概要のページを見つ
けたが、新聞記事以上に面妖。
 そこから内閣府の意識調査のページに飛んだら、去年の調査総数はわ
ずかに三千八百九十三人だったとわかった。回答した人の数、つまりは
回答できた人の総数だ。うち、要介護申請者は二十九人。
 回答した人達も老年医学会の構成員同様、恵まれて健康な人達ばかり
だったと言えそうだ。
 高齢者の定義に関する正しい質問の文言は、
「一般的に支えられるべき高齢者とは何歳以上だと思いますか」
 だとわかったが、「支えられるべき」にわざわざ点が打ってある。
 支えられるべき・・・?
 わかったようで、わからない。
 私なら、この言葉の前で立ち尽くして、解答できない。
 でも、おぼろげにわかってきた。
 七十五歳までは完全に隠居するような年齢ではない、という結論を導
き出したかったのだろう。
 年寄りだけど働いている。
 それではだめなのか、と私などは思うのだが。