解釈の海

 たまに昆虫に新種が見つかる。
 今まで発見されなかっただけかもしれないが、自然環境の変化に応じ
て簡単にからだを変えられるのかも。
 翻って人間は。
 服で身を守り、それでも足りずに空調で温度管理したりして、環境の
側をいじるのが当たり前になり、肉体そのものの進化は止まったのでは
ないか。
 我々のからだは平安時代とそう変わらない。
 同じ年齢でも今の老人は元気だ、というのは単に食糧事情と医療の恩
恵であろう。
 ところが、肉体そのものが若返っている、として〈准〉高齢者なる概
念が編み出され、定着されようとしている。
 高齢者が増えて社会保障に赤信号が灯ったのを解決したいのが真の目
的なら、経済面だけに着目して、「経済高齢者」という造語でも作り、
あなたは肉体的には高齢者だが、経済高齢者未満です、みたいに、二本
のレールを併用すればいいと思うのだが。
 それを、意識調査の結果からも肉体年齢は若返っていると、あくまで
肉体年齢の話として推し進めようとするから、一体どんな調査をしたん
だ、と気になるし、なーんだ、あらかじめ着地点を決めた上で、そこに
誘導するような質問を出したんだ、とわかって、白ける。
 情報の海、と言われる。
 情報が多すぎて溺れそうだと。
 今回は、あまりに腑に落ちなくて、調べて、わずか一ページだが、そ
の提言の概要ページに辿り着き、内閣府の意識調査にも飛べたが、普通
はそこまで手繰ろうとせず、記事を読み、その内容を起点として、いろ
いろ考え始めるだろう。
 だが、情報とは、おおもとのデータだ。
 そのおおもとのデータをなんらかの視点で切り取り、一つの物語に編
み上げたものは、そういう解釈がなされた、というにすぎない。
 記憶に間違いないなら、さかなクンが、インターネット上の情報は必
要ない、最新情報を知りたければ知り合いの教授に聞く、とテレビで語
った。その言葉は私には目から鱗だった。
 確かに、パソコン上でほしい根っこの情報を探しても探しても探して
も見つからないことがあるが、それに関して、いくつもの、どれも正し
く思えそうなホームページは百花繚乱。
 そういう中から自分で選べる自由は尊いから、やはりインターネット
はありがたいと思うが、そこにあるのは「情報」でなく「解釈の海」と
考えれば、振り回されなくなる気がする。
 本当に必要なものだけは真の情報に繋がる。
 すると、本当に必要なものはそうないとわかるし、解釈の海は、そう
とわかって漂う分には楽しめる。