カーキって何色

 街行く人のファッションを見て、関西のファッションがつまらなくな
ったと思った。
 茶色、灰色、黒、ベージュ・・・。
 ババ色、どどめ色と呼ばれる仲間の色が圧倒的ではないか。
 東京のファッション感覚に毒されてしまったんだろうなあ。
 東京は曇りがちな日が多く、そういう空気の中では、くすんだ色がシ
ックに見える。
 しかし、関西はお日様が燦々(さんさん)。冬でも燦々。南仏のよう
に強烈な日差しである。そういう光の下では、やれカッティングだ、や
れ気の利いたシルエットだ、と微細な違いで勝負する前に、まずはこの
明るい日差しに映える色である事が大切。地味な色は年寄り臭い印象に
なってしまう。
 パリに、そう高くない値段のアンティークの店がある。戦後すぐぐら
いに作られたガーネットの指輪を買い、ウキウキして帰国したら、成田
空港に着いた途端、ガーネットから妖艶なる輝きが消えて、唖然。
 そのはかなき美しさは、パリのどんより灰色の雲の下でこそ、なまめ
かしさが際立つのであったか。飛行機を乗り継いで関西空港に着いた時
のさらなる衝撃は予想どおりであった。
 なんにせよ、今の関西のファッションは楽しくない。
 そんな持論を百貨店の店員に述べた。
 くるぶし丈の長いスカートを探していたら店員から声をかけられ、一
瞬迷ったが、買う気はなくても、そのブランドのコーナーで品定めして
もいいか、という気持ちが勝ったのだ。
 店員が、そういえばそのブランドの東京の店では紺系ばかりが売れる
と聞いた、と話してくれた。
 そして、くるぶし丈のスカートを紹介してくれた。
 三色あって、どれも濃い色。
 元気が良いと言えそうなるが、黄色は黄土色、ピンクは濃い紫ががか
った色で、綺麗に澄んだ色味ではない。残るはカーキ色。
 秋でもないのに、この地の夏にカーキ色?!
 その色ゆえに却下だが、絹が三十パーセント入った素材は、軽くて優
しい風合いである。コットン百パーセントだと、どうしてもカジュアル
になるが、これだと女らしい風情。
 買う気はないけど試着したら、悪くない。シルエットだが。
 悩んで、日を替えて見に来ることにして、二日後。
 それを買った。
 唾棄している色を買うとは、なんたる言動の不一致。
 私以外の人が明るく元気な色で私の目を楽しませてくれたらいい、と
いう見解にすり替えておいた。
 身勝手だなあ。
 ところで、私はずーっと悩んでいた。
 カーキ色って、どういう色なの。
 視覚では正しく認識できるが、その名称から色を思い浮かべる場合に、
不安が残るのだ。