嘘。でも本人は本気

 あれま。
 前回「健康診断」と書いたのは「人間ドック」の間違いでした。
 人は、その気がなくても間違ってしまい、結果的に嘘を付いたことに
なる場合がある。無意識のなせる技だ。
 一方、わざと付く嘘は意識的。
 嘘にはこの二つが混在するが、人は、どうしたって無意識に嘘を付い
てしまうことがあるのなら、さらにその上、意識的な嘘も良しとすると、
人としての誠実さがねじ曲るし、人間関係や人生が余計に混乱する気が
して、だから、私は意図的につく嘘には寛容になれないのであった。
 書いた時には「健康診断」という単語だったと信じて書いたので、嘘
ではないが、実際には嘘になることを書いてしまった事になる前回は、
あまりに偶然の好事例になってしまったなあ。
 さて、二年前、母が入院した時の話である。
 同じ病室に入院中の母親の世話をしている女性の話は、ざくっと言う
と、その病室の担当医は同じ一人の医師で、もう退院した患者は良い先
生だったと褒めていたし、カーテン越しに漏れ聞こえるその医師と私の
会話も実に和やかな雰囲気で、羨ましかった、と言うのは、自分の母親
に対してだけはその医師は理不尽に冷たく、リハビリも途中で止められ、
看護師に相談しまくったが埒があかず、とうとう看護師と喋らぬようお
触れまで出されてしまった、というような内容だった。
 私は、相談されたら、その人の言葉を真に受けて、真摯に耳を傾ける
が、妙だと思った時点で疑問はちゃんと口にする。
 私は言った。医師の対応が気に喰わないからと言って、立場上その下
に位置する看護師や薬剤師に不満をぶつけても、問題は解決しなくても
当然だろう。その総合病院を紹介した開業医に一度相談したらどうか。
 ああ、なるほど。
 彼女は頷いたが、次の時に会うと、実行した形跡はなく、再び、医師
への不満と愚痴と反感を言い募る。
 私の母は、一旦退院して、手術のために一週間後に再入院し、今度は
前とは違う病室になったが、私は、相談されている彼女からいつ電話が
かかってくるかと思うと、憂鬱。
 幸い、母の手術が終わるまで連絡はなく、退院の日となり、私は思い
あまって医師に相談した。
「え、菊さんにまで迷惑をかけていたんですか」
 守秘義務で詳しく言えないが、
「退院してもらいました」
 あ、ああ・・・。
 相談するにしては、母親の病名を言わないし、会わせてくれないし、
変だと思っていたのは、やっぱり変だったんだ。
 そして今、別の友のことが腑に落ちることになった。