友は病気だったのか

 先日、探偵会社の社長のインタビュー記事を読んだら、七年前に友人
関係が終了した友のことが思い浮かんだ。
 電話で語る彼女の一人娘への態度を許容しがたく、意見して疎まれ、
縁が切れたが、記事は、この友に関して新たな視点を授けてくれたのだ。
 探偵会社に相談しに来る人達の中には、統合失調症の人もいるらしい。
 盗聴されている、ストーカー被害に遭っている・・・と調査を依頼さ
れるが、そういう事実が出てこず、結果報告を巡って依頼者と揉めるこ
ともあり、この社長はそういう人からの依頼を断わるようになったそう
だが、こういう依頼主をカモに荒稼ぎする同業者への義憤が高じ、統合
失調症の人達を医療機関に繋げる活動をし始めた、というような内容だ
った。
 上述の友は、バイトを辞めたあと、そのバイト先の人が遠くの道から
彼女のマンションを見上げている、というような話をしていた。
「私は目が良いから、遠くても、ちゃんと見えるの」
 だが、
「うちはマンションを二つも持っているから」
 声をひそめて言うのを聞いて、私は鼻であしらってしまった。
 彼女が会社でそういう話をしたのならいざ知らず、そうでないなら、
どうして会社の人がそういう情報を知り得るのか。
 それに、マンション二つは確かにすごいが、羨みそうになったら、世
の中にはもっとすごい金持ちがいる、と思い出せば、妬みややっかみが
頭をもたげることはなかろう。
 私はそうした。
 すると、わざわざ自分の家の経済的な優越感を口にする友の精神が可
哀相に思えた。そういうことを自慢し、人を見下すことで、初めて胸を
張れる、ということだから。
 でも、もし、それで気が済むなら、私は聞くよ。こういうことでは私
の心は波立たないから。
 そして、私は、友の嘘を見抜いた気分で、探偵会社に相談したら、と
言ったように思う。調べてもらって、自分の勝手な思い込みだと突きつ
けてもらえばいい。
 けど、そうか。彼女は、見張られているという幻覚に囚われていたの
か。思い返せば、ほかにも偏執的な発言をしていたなあ。病気だったん
だ。
 そして、私は愕然とした。
 統合失調症のことは少しは聞きかじっているのに、今回、記事を読む
まで、その病気と友の奇怪な発言を結びつけて考えることができなかっ
たからだ。
 知識のそれぞれが単独で脳に格納されているだけ。
 知識が、ほかの知識と有機的に結びついていない。
 知識があっても、なきごとし。
 それがショックで。
 それにしても、友は今、どうしているだろう。