直感は助ける

 スポーツでも何でも、才能燦めく人に惹きつけられる。
 でも、関連本を買いたいとまでは思わない。
 それが、藤井聡太だけは、彼が載った『ナンバー』を買い、保存用にも
う一冊手に入れようと躍起になった。
 我ながら不思議だったが、私は、音楽を流しても、集中し始めたらすぐ
消し、基本、人工の音は苦手。
 変な人間なんだと肩身が狭かったが、棋士は対局が一日がかりでもずっ
と無言。「それが普通」の世界があったんだ。
 しかも彼らの武器は知能で、賢い人好きの私の心がくすぐられる。
 かくて将棋に魅せられることになったが、そのきっかけとなった藤井聡
太は外せない。
 九月五日に近くの書店で保存用に『ナンバー』を注文し、アマゾンでも
注文して、絶対に手に入る状況を確保したけれど、どちらかを不誠実に踏
み倒すつもりはない。
 書店は月曜日に出版社に入荷の有無を聞いてくれる。アマゾンへの入荷
はずっと先の十四日。
 月曜の書店からの返答を聞いて、決断しよう。
 でも、私は、書店で買いたいと気持ちが定まっていた。
 アマゾンなら、たまったポイントを使って定価より安く買えるが、それ
がどうした、と思ったのだ。 
 アマゾンでは、新品十七点とある書店販売価格の中の一冊を選んだけれ
ど、「コレクター商品」という名目で四倍以上の価格のも載っている。
 王位戦封じ手のオークションは、入札金額が異常に釣り上がったが、
大半がいたずら入札だったと判明した。
 不誠実が跋扈(ばっこ)するインターネット。
 できれば関わりたくない。
 願い叶って書店で買えることになったので、心置きなくアマゾンの方を
キャンセルした。
 二重注文した初動が良かった、と心の中で自分自身を褒める。
 さて、注文から一週間目の金曜日。書店に行ったら、『将棋世界』が平
積みされている。前に聞いたら取り扱っていないと言われたのに。
 中を見ると、なるほど将棋を指さない人間には専門すぎる内容。
 でも、これも買った。藤井聡太の表紙だし。
 さらに別の日には、藤井聡太の写真集を購入。
 この写真集のおかげで、私がなぜ、保存用に『ナンバー』をもう一冊必
要としたかがわかった。
 写真集は、読んだあと保存もできるしっかりした紙質だが、『ナンバー』
は雑誌の域を出ない不安さがあったのだ。
 私は直感で、そう見抜いていたらしい。
 パッと見た時、芸能人の顔がなんか変わったと感じたら、整形。
 直感は、正しい判断であることが多いように思う。