最善手に貪欲

 スポーツ雑誌『ナンバー』で初めて将棋の特集号が発売になるという九

月三日。書店を覗いたらあったので、買うことにした。

 四冊ある。

 二冊買った方がいいかなあ。

 保存用の一冊を求める人は、手垢などがついていない、物理的に限りな

くまっさらに近い一冊がほしいのだろう。

 私がほしくなるとしたら、文章に心打たれ、文章に敬意を表してのこと。

ほしいのは言葉。書き写せば済む。スキャンしてパソコンに保存すればも

っと簡単。

 こんな私が二冊買い、買えたはずの人を妨害することはあるまい。

 だが、将棋の記事を読み終えた翌日、二冊買っておけばよかったと思っ

た。

 と、売れ行き好調で再重刷が決まったという情報。

 ならば私が二冊目を買ってもいいわよね。

 翌朝、近くの書店で一冊注文した。店頭になく、取次店にも在庫がない

と言われたのだ。

 注文伝票はアルバイトの男子学生が担当。真摯な姿勢を寛大な眼差しで

見守るが、プリントアウトして確認してくれた雑誌の表紙の縮小写真には

『ナンバー1010号』とあるのに、『ナンバー2020』と書く。

 これで大丈夫と言われるけれど、私自身が不安なので、「藤井聡太」と

書き添えてもらい、レジ待ち客が途絶えて手が空いた女性店員に入荷時期

を聞いたら、出版社が注文を受け付けてくれるかどうかに因ると言われる。

 あいにく土曜で、月曜を待つしかないのか。

 いや。

 私は、その足で、そこより大きい書店に行き、発注を頼んだ。

 すると、人気すぎて受け付けていないと言われる。

 再重刷が決まったのに、そうなのか。

 私は、最初の書店の注文伝票の記載内容が不安で、ここで新規に注文し

てから、初めの注文をキャンセルするつもりだったが、この分では、月曜

に、出版社から回してもらえないという謝りの電話がかかってくる可能性

もありそうだ。

 不安。

 帰宅すると、大手書店のオンライン通販サイトを見た。

「販売中止」の文字。

 不安がいや増す。

 窮して出版元のホームページを見たら、注文はこちらから、とオンライ

ンサイトが表示されていて、ああ、救いの女神はここにいたのか。

 うち一つはアマゾン。新品十七点、とある。

 書店購入と同じ扱いにするためか、送料無料。溜まっているポイントが

使えるので、定価より安く手に入る。

 注文ボタンをぽちっ。

 かくして二つの可能性を手にして私は自問した。

 どっちで買おう。

 保存用の一冊を買う気になってから翌日までの顛末である。