薬剤師

 先日、処方箋の漢方薬が二種類とも出荷調整で店に在庫がないという薬局
ばかりで青ざめさせられたが、出荷調整って要するに何。
 当面しのげるだけの在庫を持っている薬局が見つかり、買いに行った時、
薬剤師が教えてくれた。
 理由は新型コロナウイルス
 症状抑制に漢方薬が効くとわかってその漢方薬の製造が最優先になり、同
じ成分を使う別の漢方薬の製造に支障が出て、出荷限定になった薬のことを
言う。
 出荷停止というのもあり、実は、私の一つの方がその対象になっていた。
 店内に客は私だけなので、私はほかの薬や症状についても訊ねた。
 薬剤師は丁寧に答えてくれる。
 それにしても、質問し、返答が返ってきて、また質問し、を繰り返すだけ
なのに、なぜ時間は飛ぶように過ぎるのだろう。
 と、私は急に喉が渇き、断ってから、水筒の水を一口飲んだ。
 続いて、暑く感じて上着を脱ぐ。
 それでもなんか変な感じがして、話を中断して、後ろのソファーに座り込
んだ。
 落ち着いてから、再びこの薬剤師を呼んでもらったのは、まだ私以外に客
はいないからと、あと幾つか教えてもらえたら日頃から抱いていた疑問が解
決するからだ。
 が、まずはさっきの私の異変について。
 私の行動の順から察するに、血圧が急に変化して自律神経が乱れたのだろ
うと言われ、症状からそこまで推察できるなんて、そのとっかかりぐらいで
も私も知識を持っていたら自分や他人の役に立つのになあと思わされた。
 結局、一時間半ぐらい相手をしてもらった。
 私の質問が、いろいろ読んで仕入れた知識を踏まえたものだとわかり、あ
あ、そこまで知っているならと一歩も二歩も踏み込んだ答えを返してもらっ
たからということはあっただろう。
 医者は、薬を出す時、変える時、なぜその薬なのかを詳しく説明してくれ
ない。
 そういうことは、看護師や薬剤師が、聞けば教えてくれるとわかった。
 もちろん、今はインターネットがある。
 その日、家に帰って調べたら、去年の夏ぐらいから新型コロナウイルス
せいで漢方薬の出荷調整が始まったという情報は一つに留まらなかった。
 だが、そもそもそういう状況になっていると知らなければ、調べないから、
知らないままになるのは道理だろう。
 郵政民営化前の郵便貯金をパアにする人が増えているが、そういう人達は、
満期後二十年で払い戻しの権利が消失するとは知らず、貯金を続けているつ
もりになっているかららしい。