減点主義は不幸

 グレーのモヘアのベストが白いシャツに良く映え、素敵だったので、
そう言ったら、「ユニクロなんだけど」と言われた。去年、やはりモヘ
アタッチのオレンジの服を褒めたら、その相手も「だけど、ユニクロ
と答えたっけ。
 これが小物だったら、「でも、これ百均」と答えるようなものだろう
か。
 長袖の季節になり、アームカバーが必要になってきた。今まで、西部
劇に出てくる銀行員がしていたような肘まで隠れる形しかないと思って
いたら、職場の人が、それを三分の一ほどにちょんぎった形のをしてい
て、私の目がきらりと光る。
 一番汚れる袖口をカバーするだけだから大げさでなく、可愛いさが増
して、女性にぴったり。 “アームカバー(フレアタイプ)”と名前まで
付いていることをインターネットで知った。
 でも、これだけ取り寄せるのでは手数料や送料が高くつきすぎる。
 それが、百均にあった。
 ついでに、幼児の英語レッスンの教材作成用に絵の具パレットとマグ
ネットも見つかった。特にマグネットは安くたくさん手に入れたかった
ので、大感激だ。
 ただ、アームカバーは、二日目にして中のゴムがほどけてしまった。
縫い糸を切ってほどき、ゴムを結び直し、また縫い直すのだが、てろて
ろの生地なのでやりづらい。やっぱり安物はなあ……。
 しかし、イタリア製の生地を使った膝丈のドレスは、初めて着用した
日に、裾のまつり縫いがツツーッと一周ほどけ、まもなく私のスピーチ
という段になって、ホテルの人に安全ピンを持ってきてもらうような羽
目に陥ったし、この手のことはデパートで買った服でもよく起こる。
 なので、鬼の首を取ったように「だから百均は」と嘆くものでもなか
ろうと、怒りに歯止めがかかった。
 歳を取り、「人間が円くなる」のは、激論や反論が面倒臭くなるちゃ
らんぽらんな精神状態だと思っていたけれど、経験の量だけ物事が多面
的に見え、結果として、歯切れの悪い態度にならざるを得ないのかもし
れない。
「急いてはことをし損じる」も「善は急げ」も真理なのだ。