人の都合で「害虫」

 十月になった。
 ベランダのオリヅルランはランナーを伸ばして、たわわに子株。
 実りの秋である。
 が、咲いた花の色が次々変わってゆくランタナ、和名「七変化」は、
春に一度花が咲き終わったのに、またつぼみが膨らみ、ピンクに色づい
てきた。
 亜熱帯の中南米原産の花が今頃咲くのって、正常?
 疑問であるが、もっと疑問は、この花から去年採ったつもりの種を、
この夏、植えたら、何かわからない葉っぱが生えてきたことだろうか。
 これは何?
 まあ、成長したら、わかるだろう。
 ところが、ある朝、すべての若葉に虫食いの穴が発生したのである。
翌日にはそれが拡大し、ついに葉っぱは見る影もなく、ただ葉の中央の
一本の筋が残るのみという無惨な状況になって初めて、その筋にぴたり
と張り付く青虫たちが姿を表わした。
 ええっ。ここまで葉っぱと同じ緑色なの。
 思わず、生物学者の眼差しで驚いてしまうが、三センチほどの長さの
から、七ミリほどの小さいのまで、十匹以上というのはあんまりではな
いか。
 わずか五、六粒の種から芽生えた葉っぱによってたかってサ。
 いっそ、このまま、次なる展開を見守ろうかしら。
 だって、もう食べられるところはほとんどない。彼らが、どう飢え死
にしてゆくのか、観察するのも一興であろう。
 けれども、やはり、私の植物を少しでも救済したくて、青虫を割り箸
でつまんでは捨て、つまんでは捨てた。
 時、すでに遅し。
 きゃつらは、植物が生き延びるために不可欠の成長点まで食べていた
のだ。
 幸い、一本だけ、強い生命力を発揮したのがあって、それが、今、す
くすく育っているわけだが、私は「共存」の理想と現実について考え込
まされた。
 作物がちゃんと育ってほしい立場から、それを食べる虫を一方的に
「害」ある虫と決めつけるのは違うと思う。でも、ここまで徹底して食
べ尽くされる現実を目の当たりにすると、作物と虫の壮絶なる生存競争
のようにも思え、なんとしても虫を撃退したくなる。
 二十四時間態勢の人海戦術で見張るわけにもいかないとしたら・・・
化学合成農薬?
 残留農薬の人体への影響は、大いに気になる。
 だけど、知り合いの農家からもらったトウモロコシの先の部分に、実
と見間違えそうな頭の形をした虫が入り込んでいるのと対面したりする
ことがあると、スーパーで買ったキャベツは、上の空でざっくり切って
洗って、食べたり調理できるのは、ああ、嬉しい、と思うから・・・矛
盾なんだなあ。