ずるい

 海外在住の有名人宅を訪問した収録映像が流された。
 家の中に滝。とてつもない金持ち。子供もいる。
 ゲストの子供の一人が、
「ずるい」
 と言う。
 この子の家だって相当なはずだろうに。
 この子は、ほかのゲストの子供達の何かを紹介された時も、
「ずるい」
 と言っていたので、ほかに言葉を知らないのだと見ることはできたが、も
しこれが口癖なら憐れだ。
 ずるい、は私の語感では、本来自分が手にできるはずの物を自分ではなく
他人が当然のように有していて、それは間違っていると激しく抗議したい気
持ち、だ。
 ところが、辞書には、
「自分の利益のために誤魔化して上手く立ち回る」
「自分の利益になるようにうまく立ち回る」
「当然すべき事をなまけたり、自分の利益を得るためにうまく立ち回る性質」
 などと書いてあり、うーむ・・・。
 親が自分にだけこっそりお菓子をくれたのが兄弟にばれ、「ずるい」と言
われるようなことはよくあるが、この説明では合わない。
 なんにせよ、この感情を是としたら、相手を羨み、翻って自分自身の現状
を僻んでよいということになる。ずるいと言いたくなる相手は次々見つかり、
埒があかなくなるだろう。それに、相手が理不尽にそれを得ていると思う心
は醜い。
 ところが、先日「ずるい」と思った。
 去年の春初めて買った桜の盆栽が夏を越え、迎えた十二月に腋芽(えきが)
を出した。
 ちゃんと生きてくれていたんだなあ。
 下の方からも脇芽が出て、それは先が割れて、ちらっと赤い。花芽だった。
 正月に桜が咲いた。
 狂い咲きか。
 だが、寒さのおかげか、一ヶ月間咲き続けてくれた。
 一方、枝のてっぺんの腋芽は葉芽(はめ)だったようで、三月に入ってよ
うやく葉っぱが伸びてきた。
 もう花は咲かない。
 なので、馴染みの店に桜の盆栽が出ると、一鉢買った。
 少しして別の花屋でも売りに出たが、鉢が大きく、その分、桜の枝は太く
大きく、花芽もたくさん。
 ここまで大きくするのに何年かかったのだろう。
 それが、金さえ出せば手に入るんだ。
 それでいいのか。
 不安になる。
 というのも、いろいろな花を自分の手で次のシーズンにも立派に咲かせよ
うと格闘し、その難しさを経験しているからだ。
 最良の状態のを買えばいいだけなんて、私は「ずるい」。
 辞書に載っている意味でそう思った。
 でも、買った。
 見頃は来週。