今頃、シートン、ファーブル

 数ある中から、何と出合うか。
 自分で選ぶとしても、「運」もある気がする。
 そして、その出合いが「ついていた」と言えるのは、出合った物にな
んの不満も起きない時ではないか。
 現代小説を見限り、
「何を読もう。あ、ジョン・スタインベックの『贈り物』が良かったな
あ」
 と思い出し、市の図書館ホームページで彼の作品を探したら、『赤い
馬』という児童書の中に『贈り物』が収まっているのを発見。
 それを借りたところに、私のツキがあったと思う。
 1969年〜71年に偕成社から発行された少年少女世界名作選全二
十二巻の第三巻。
 訳者の西川正身は、
「できるだけ原文に忠実にやったつもりです。ですから、あなた方が大
きくなって、原文を読まれるような場合、このわたくしの訳は、かなり
お役にたつだろうと信じます」
 と書いている。
 偕成社も、
「完訳を原則とし、やむを得ない作品にかぎり良心的な縮訳としました」
 とした旨を明記。
 それだけでも素晴らしいが、
「この選集は、小学上級・中学生のために、定評ある世界文学のなかか
ら、精神形成期の読書にふさわしい作品をえらび、一流翻訳家による決
定訳として世におくるもので」
 と高らかに宣言。
「精神形成期」
 なんて言われたら、今どきのひねた心では、
「フン」
 と鼻であしらいたくなりそうだが、人間として気高き精神を育むこと
は大切で、我々がこの選集にてその使命を果たす、と表明したというこ
とは、そういう志のもとに選ばれた二十二巻であるはず。
 実際、その気概が『赤い馬』を読んで伝わってきたので、全巻読破を
決定。
 それどころか、最後のページに紹介されている『少年少女シートン
物記全六巻』と『少年少女ファーブル昆虫記全六巻』にも触手を伸ばす
という欲張りな私。
 おかげで、海外小説と、動物と、昆虫の世界の話を同時に読む羽目に
陥り、あな忙し。
 ちなみに、シートンのは動物観察に根ざした小説で、ファーブルの方
は昆虫観察結果の公表だが、これも小説に通じる読み物仕立てなので、
動物や昆虫にさして興味はなかったのに、
「へえ。ほお。ふーん」
 知的好奇心を刺激された。
 世界が広がったってこと。
 けど、小学生の私は、一度は手に取るも、最後まで読み通せなかった
んだよなあ。
 アメリカの農場の生活とかがピンと来なくて、挫折したのだろう。
 今なら、宇宙の果ての話だって、想像力でラクに実感できる。
 今が、私の潮時。
 人より遅すぎるけど、死ぬまでには間に合ったので、良しとしよう。