扁桃腺炎

 耳鼻咽喉科を受診後、薬局で薬を受け取る時に薬剤師から病名を聞か
れたが、答えられない。医師から病名を告げられて、大人の私がそんな
病気にかかるなんて、と思ったせいか、記憶に定着する前に忘れ去った
のだ。
 薬剤師がめぼしい病名を挙げる。
「もっとありきたりな、子供がよくかかる病気です」
扁桃腺炎ですか」
「そうです!」
 この病気にかかったら、「扁桃腺にかかった」と表現していたように
思う。しかし、扁桃腺は部位を表わすだけなので、この言葉を使うなら、
扁桃腺が腫れた」と言うしかないはずだ。そう理屈で考え、本当はど
う言うんだろう、と調べたら、「扁桃腺炎」と「扁桃炎」の二つの言い
方があるらしい。
 ついでに症状を見ると、私に当てはまるのは、慢性の場合の耳の痛み、
のみ。
 薬剤師に、耳が痛くて耳鼻咽喉科に行ったと話したら、正しい判断を
したと褒められた。耳、鼻、喉のどこかが痛くなった場合、へたに内科
に行くより初めから耳鼻咽喉科に行く方が良いらしい。
 そして、扁桃腺炎で耳が痛くなるのは、普通は、子供だ、と言われた。
子供は喉と鼻の位置関係からそうなるのだとか。
 じゃあ、私は、頭の骨格が子供のままってことですかい。
 反射的に言外の意味を読み取って、それ以上は言わないで、という嘆
願を、目で威圧することで伝えるが、薬剤師は、事実は事実、と思うか
らか、
「大人になると、あんまり耳は痛くならないんですよね」
 澄まして言い切る。
 私は、ひとごとみたいに大笑い。
 どういうことであれ、知らなかった自分自身を知れたのだから。
 それにしても、歯医者とアレルギー科には早々に予約を変更してもら
ったのに、耳鼻咽喉科に行こうと決意するのが最後の最後になったとは、
よっぽどこの病院を信用していなかったんだなあ。右耳がクチュクチュ
鳴ると訴えても、耳の中は綺麗だと言われるだけで終わった過去がある
のだ。
 鼓膜の内と外で気圧に差ができた時は、唾を飲み込む真似をすると、
治る。しかし、ついにそれでは調整できなくなって耳が痛み、深夜、眠
りの中で痛みの極みに耐え、あ、楽になった、と思ったら、耳から汁が
出て枕を濡らした。
 右耳の鼓膜が破れたのだ。
 大学生の夏の出来事である。
 以来、右耳の中でクチュクチュ音がするようになったので、鼓膜が破
れた後遺症だろうと思っていた。
 ところが、今回、左側でも同じことをしてみたら、左耳も同じように
音がする。
 え・・・。
 この事実に、私はうろたえた。