女は大変 1

 東京医科大学の医学部医学科は、長年、一般入試で女子の受験者の得
点を一律に減点操作し、男女の合格者比率を操作してきた。
 大学が女性医師の育成を嫌ったのは、結婚や出産で休職したり退職さ
れる将来のリスクを恐れてのことだったとか。
 そうかあ。
 で、これを仕方ない、と考えたとする。
 つまり、本当に優秀な女子より、頭の悪い男子でも、彼らであれば私
生活を犠牲にして医療に専念してくれる。大学はそういう人材を求めた
わけだが、この大学だけの特殊事情ではあるまい。
 高収入は、労働基準法を遵守せずに働くことの引き替え、というのが
暗黙の了解になっているニホンの男社会。
 それに、家と切り離された職場で働くことは、家事や子育てのような
誰からも評価されない労働よりも闘争心に心地好い、という男達の本音
もあろう。
 長時間労働は、低賃金なら論外だが、高収入の場合、男達自身が雇う
側の論理にすり寄ることになるのだ。
 人の命を救う特殊な仕事だから、というのは感傷に走った自己陶酔で
ある。
 私の友は、夫が、医師ではないが、マンションを頭金なしで契約でき
るほどの高収入を稼ぐまでに至った。
 が、とっかえひっかえ不倫三昧。
 友は体調を崩し、離婚を求めるも、子供達が小さかったので断念。
 その後も、夫は、出張旅行に愛人を伴ったり。
 先日、六月十八日に大阪府北部地震があった際、その夫は、出張中の
海外から友に連絡してきて、最後に、
「帰ったら離婚の話し合いをする。お前とはもうやっていけない」
 と通達したらしい。
 友が、大阪で独り暮らしの自分の母親は大丈夫だった、と先にその話
をしたら、俺の母親は後回しか、と腹を立てたそうだが、彼の母親の近
くには妹が住んでいる。
 今回、改めて友から夫の言動をいろいろ聞かされ、あ、モラハラかも、
と気づかされた。そう気がつくと、不可解な言動がすべて腑に落ちる。
 友に働けと言いつつ、パートの仕事を見つけてきたら、
「そんな仕事は俺の恥になる」
 と訳のわからないことを言って、辞退させる。
 でも、渡すお金は最低限。
 友は家を出ると決意し、そう告げると、大阪で独り暮らしの高齢の母
親が、
「じゃあ、私も一緒に住ませて」
 と言ってきたそうで、お母さんは一人で頑張ってきたけど、本当は限
界だったんだ。友が一緒に暮らしてあげることは、母親の最晩年への最
後で最高の贈り物になるだろうな。
「もう同じ空気を吸うのも嫌。アパートを借りる」
 と友。
 さすがに、それは引き留めた。