暑さ寒さも彼岸まで

 二日前。私は無性に髪を切りたくなった。
 私のゆるやかな天然パーマを引き立ててくれるのは、長年、ショートカ
ットだったが、髪の毛が細ってきたのか、近年は髪の重みで髪を重力方向
に引っ張る長い髪が、私の定番。肩甲骨より下までの長さがあっても、そ
うとわかるのは髪を洗った時だけ。昼間は十センチ以上、上に上がる。
 なので、それほど長くないと人には見られるが、髪の重さが軽くなるわ
けではない。家では髪をゴムでくくるから、毛先が首筋に当たる髪型より
涼しいはず。
 が、髪の重さも、ゴムでくくってもましにならない暑さも、すべてにう
んざりした。
 静電気発生装置に触った時みたいな髪になってもいいから、髪を切る。
 暑さに八つ当たりするみたいに、そう決めた。
 しかし、翌朝、その激高は消えた。
 Tシャツ、半ズボン、素足、という家での格好のことごとくが不適切に
なったのだ。
 窓も開けっぱなしにしていられない。
 暑さが収まったと思ったら、望む快適さを通り越して、涼しすぎる。
 そして夜。
 疲れたのでいつもより早く寝て熟睡中。日付けが二十一日に変わってか
らの深夜二時頃、目が覚めた。
 毎晩私の足で隅に蹴散らされていた万が一用の薄い羽毛布団は、私の全
身を覆ってくれている。それでも寒くて身が震えたのだ。 
 トイレから戻り、厚手の羽毛布団を引っ張り出そうかと見てみると、布
団カバーをしていない。
 カバーをつけているうちに目が冴えてしまいそうで、寒くなかったこと
にしようと思いかけたが、その判断が招く結果は良くない気がして、仕方
なくカバーをつける作業に着手。
 たぶん、寒さで暴力的に起こされたのは、ノンレム睡眠のさなかだった
のではないか。
 暖かい布団に替えて正解だったが、もう寝られない。なんとか寝付けて
も、変な夢をいっぱい見る。眠りが浅い。
 今朝は寝坊が厳禁ゆえ、珍しく目覚まし時計をつけておいたら、鳴って
は止め、鳴っては止めを二度繰り返し、三度目のベルで、ようようベッド
を這い出た。
 今も頭が重たい。
 そんな頭で私は再度考えた。
 長引く夏が去ったと思ったら、なぜに、つるべ落としで涼しくなる。
 今年が特別なのか。
 去年の日記を見てみた。
 去年、私が厚手の羽毛布団に替えたのは九月二十三日だった。
 今年は二日早い。
 え・・・。
 でも、今年も去年も、彼岸のさなかで、秋分の日の前後。
 どんな異常気象も彼岸までなのか。
 昔の人は知っていたんだ。
 尊敬だ。