目眩の引き金

 アルコールが体質に合わないのに赤ワインを買った私は、今週は、安売
りのシードルを見つけて、買った。
 一本飲んで、美味しかったので、また買って、計二本。
 クレープはそもそもは蕎麦粉の生地に卵、ハム、チーズなどの具材をの
せて焼く料理で、一緒に飲んで一番合うのがリンゴ酒、シードル。
 シードルもクレープも、フランス、ブルターニュ地方の発祥である。
 私はシュワシュワッと炭酸みたいな発泡性のシードルしか知らないが、
買ったのもそうで、美味しかった。
 売っていたら、もう一本買いたい。
 アルコール度数は二パーセント。ビールより軽い。同じようにシュワシ
ュワするのなら、私はシードルが好き、とわかった。
 そう話したら、ビール偏向愛の叔母と話が噛み合わず、はたと気がつい
た。
 私はビールは好きじゃない。
 乾杯の音頭の時などに、コップの底に一センチほど注いでもらうビール
に口だけ付けていた私がそうであった理由は、飲める体質に生まれたかっ
たと嘆きたくなったことがないからだ。
 味の違いがわからない。
 なーんだ、そういうことだったのか。
 そうとわかる前と、わかった今からあとで私の行動が変わるかというと、
何も変わらないだろう。傍目にはまったく同じ。でも、私の中では、私自
身がより深く理解できたという意識がある。
 それは、なんか、目眩がするような喜びだった。
 あ・・・。
 筆が止まった。
「喉元過ぎれば」
 とか、
「目と鼻の先」
 など、よくこんなうまい表現を思い付いたなあと思わされることは多々
あれど、目眩を使ったこの表現は、書いてから、ちょっと、どうなんだろ
う、と思わされた。
 十年以上前に、ベッドで身体を起こしたら、壁と天井が接し合う部屋の
隅が、ぐい~ん、と動いたことがある。吐き気もする。
 横になり、目を閉じても、暗闇の外に感じる世界はぐいんと揺れる。
 良性発作性頭位めまい症
 先週、久しぶりにそれに襲われた。
 今回は、物が、ぐい~ん、と動くことはない。
 耳鼻科で診てもらい、ほどなく回復したが、なぜ私は目眩になった。
 ストレス、と直感した。
 本当かなあ。
 調べに調べて、やっぱりストレス、と納得できた。
 パソコン操作やテレビを見るなど同じ動作を続けたり、運動不足が続く
と、なりやすいとか。
 パソコンの前にへばりつくことが多いのに、Zoomでの仕事も加わり、
目がしんどい。
 外は新緑。
 連休明けに外出自粛が延びたら、私は壊れる。