薬局での話

 私は、処方箋は、クリニックからファックスで薬局に送ってもらう。私が
薬局に着くまでに処方箋を出す人がいたら、その分だけ私の番が遅くなるか
らだ。
 薬局では番号札を取らないので、受付でどのぐらい待つか聞く。
 先日は、すぐにできると言われ、ほどなく薬剤師から名前を呼ばれた。
 クレジットカードで支払うので、端末機がある場所に移動する。
「ポイントカードはありますか」
 隣接のドラッグストアでポイントカードを作ると、薬局での支払いについ
ては百円で一ポイントだけだが付与してくれ、五百ポイント溜まると、ドラ
ッグストアで何かを購入する時、五百円引いてもらえるらしい。
 薬はその薬局でしか買っていないが、そんな説明、初めて聞いた。
 もっとも、今までに聞いたとしても、五百ポイントまでの道のりに目眩が
して、作らないと答えていただろう。
 実際、この時、私は、
「また考えます」
 つまり、たぶん作らない、とやんわり意思表明した。
 薬剤師は私のこれまでの購入履歴に目を通し、
「そうですか・・・。随分買ってはるんですけどね・・・」
 塵も積もれば山となるのに、と我が事のように残念がってくれているのだ
とわかり、私は心が揺れる。
 すると、あともう一押し、と薬剤師が思ったかどうかは知らないが、今す
ぐドラッグストアでカードを作って持って来たら、この薬代のポイントを付
けられます、と言葉を重ねる。
 住所、氏名などを書くだけでも面倒だしなあ。
 が、私は、
「じゃあ、そうします」
 薬代を精算してから、ふらふらドラッグストアに向かった。
 私が損してもどうってことない彼女ゆえ、その熱心さは純粋であり、しか
も圧倒的なら、どうして私のか弱い理屈で対抗できましょうや。でも、心は
まだ最後の抵抗状態。ゆえに私の足取りは屈託したのだ。
 ポイントカードを作って戻ると、受付の人に話は伝わっていたようで、す
ぐにポイントを付けてくれた。
 五百ポイントは遠いなあ。
 しかし、これまでに支払ったアレルギーの漢方薬代を思うと、急に悔しさ
が込み上げてきた。
 私の今後の損を防いでくれた薬剤師。
 そのせいで過去の損を悔やむ私は、最低である。
 なんにしても、今回、あの薬剤師に遭遇できてよかった。
 感謝だ。
 おかげで、改めて学ばせてもらったこともあるし。
 良くも悪くも人を落とすには親身な熱心さなのだ。
 こう言うと、感謝にケチを付けたみたいに聞こえるなあ。
「良くも悪くも」が余計なんだな。
「落とす」は「心を動かす」に変えよう。