もっと創造力

 キンコン西野の本と映画のヒットは周到に計画されていた。
 制作に携わった人達は作品に強い思い入れを持つから、自分が代金を払
ってでもより多くの人に見てほしいと願う。その心理をうまく活用する仕
組みを西野は作ったし、無料で何百冊と配布するし、告知して頻繁に映画
館に現われ、観客動員に貢献。
 のちのち取り沙汰されるのは数字だけ、と見抜いているのだ。
 森喜朗が五輪・パラリンピック組織委員会の仕事は無報酬で引き受けて
いると言ったあと、納入業者からの年間何千万円もの献金や、怪しい財団
との利権問題が暴かれても、彼の実績に付記されないのと同じだ。
 西野にその手の悪はない。
 彼の戦略を使えば、どんな本や映画もヒットさせれられるのか。
 ただ、作者は、西野のように強烈に人を惹きつける人物であることが大
前提。
 ん。
 作品よりもそれが重要ってこと。
 芸人のほんこんが、えんとつ町の住人は煙の中の暮らしに不平不満はな
かったよな、と映画を見て、根本的な指摘をした。
 周りのみんなに馬鹿にされても夢を諦めるな。
 ポルトガルに拒否され、ようやくスペインの後ろ盾を得てアメリカ大陸
を発見したコロンブスを始め、夢を実現した人達は多い。
 えんとつ町の主人公は、父親の言葉を信じて、煙の外の世界を見たいと
思った。コロンブスの側の人間だ。
 現状への不満や、まだ見ぬどこかへの憧れは、個人的。
 民族的な理由で不当に軟禁されたり虐殺されるなど、仲間みんなが苦難
の中、勇気に運が味方して脱出できたヒーローとは系譜が異なる。
 けど、えんとつ町には煙がもくもく。
 住人達は仕方なく悪辣な環境を耐えているのだ、と私達は私達の常識を
勝手に当てはめてしまう。
 そんな風には描かれていないのに。
 だから混乱。
 ほんこんの指摘は鋭い。
 先日、テレビで『天気の子』が放映されたので観たが、終盤、私は大き
く興を削がれた。
 高い階のアパートに引っ越すしかないほど町が雨で水没したら、電気系
統がやられて都市生活は崩壊するはず。でも、人々は、長雨が続いて困る
なあ、ぐらいの感覚で普通に生活。
 その時点まで限りなく現実世界に忠実な描写だったのに、いきなり筋書
き優先の非現実に。
 そういう安直さに逃げず格闘する時、創造力は、批判的な人々をも唸ら
せ、ひいては子供達の精神を強く揺さぶるだろう。
 是枝監督は、樹木希林の意見を取り入れ、彼女の出番の『万引き家族
のシーンを変えた。