信じそうな嘘

 のぶみ。
 過去に陰惨ないじめをしていたことが取り沙汰され、オリンピック開催
の直前、プロジェクトを辞退した絵本作家だと知り、図書館で何冊か借り
てきた。
『うまれるまえにきーめた』はその一冊。
 題名からして既視感だった。
 子供達の胎内記憶を語り広めた産婦人科医が携わる映画ができた時、関
連のホームページに回収率は四十五パーセントだったというアンケートの
結果が載った。ごく簡単なものだったけど。
 でも、回答者は千人以上。
 百人に聞いたというのぶみがこの調査結果を拝借したことはなさそうだ。
 じゃあ、出所は。
 そう思った。
 こういう疑問を持てる程度には、私は「騙されないぞ」という警戒心が
持てるようになったのだ。
 テレビのコマーシャルは質が低下したせいか、
「ご満足度は九十八パーセント以上」
 というような言葉が出る。
 二人だけに使用感を聞き、その二人が満足したと答えたら、百パーセン
ト。けど、あまりにあからさまなので、手心加えて二パーセント引いた、
なんてこともあるだろうな、などと想像する。
 さて、子供が母親を選んで生まれてくるという一件だが、何人の子供に
聞いたかは、実は、この発想を喜ぶ親にはどうでもいいのだろう。
 私は、母親に虐待されたり殺される子は、そういう母親のもとに生まれ
たかったのか、と思って驚くだけだ。

 ママは、くるまに ぶつかって、 おばけに なりました。
 「あたし、しんじゃったの? もう! しぬ ときまで
 おっちょこちょいなんだから」

 これは、のぶみの『ママがおばけになっちゃった!』の冒頭である。
 おっちょこちょいで交通事故で死ぬ・・・?
 この文章に笑えない人はどうしたらいい、と思ったし、最後のページの、

 ママの パンツを はきながら ねむると・・・・。
 ママが ずっと そばに いるような きが しました。

 は、ただただ気色悪かった。
 でも、大手の講談社が出版元だし、市の図書館の所蔵数も多い。
 変だと思う私の方が変なのか。
 単に感性が合わないだけ。
 それでいいだろう。
 人は、自分の心に添う考えを正しいと思うものなのだ。
 嘘を本当っぽく見せて人を騙すのはやめてほしいと思うけど。
 昔、スキーでヨーロッパの小さな空港に降り立ち、パスポートを見せて
入国した直後、そこにいた空港職員にトイレを聞いたら、雨傘を渡され、
トイレは外だと信じた。
 疑い深くあろうとしても、かくも騙される私なのだ。