続・医者の言葉

「医者から頭ごなし叱られた」
 と相次いで叔母二人から話を聞かされた時、私は、以前、医者から即入
院と言われて本気にしなかったら、
「家で夜中に呼吸困難になって、救急車で運ばれたりしたら嫌やろ」
 という言い方をされ、おかげで覚悟がついたことを思い出した。
 が、頭ごなしに叱られたという感想はない。
 叔母達は大げさなのか。
 一人は、久しぶりに歯医者に行ったら、なぜ通院をやめた、何度も聞く
から治療内容をくどいほど説明したし、その記録も、ほら、書き残してあ
る、なのにふっつり来なくなり、そのあいだに歯の状態が悪化して、抜か
ねばならぬ歯が増えた、こんな患者は手に負えない、というようなことを
言われたらしい。
 叔母は心外で、次の時、娘を伴って行ったら、娘がいるので口調は穏や
かになったが、医者はやっぱり嫌味っぽい態度だったという。
 もう一人の叔母は、眼科だ。
 白内障が進んでいる実感はあるけれど、もういい歳なので、このままで
もいいかと思っている、とは聞いていた。
 しかし、一度診察してもらうことにしたら、夫婦でやっている開業医の
女医が診察して手術を勧め、叔母は難色を示し、すると、そのまま夫の眼
科医に診察が引き継がれ、このまま放っておくことはできない、すぐに手
術だ、と有無を言わさぬ口調で言われ、手術日を決められ、ようやく診察
室を出してもらえたらしい。
 二人の叔母はどちらも、新型コロナウイルスが蔓延する中、病院に行く
方が怖いと思い、受診を先延ばしにしていた。
 そのあいだに病状が進んだのだろう。
 専門医の立場からは、無駄にした時間が悔しくて、思わず声を荒げたく
なったのかもしれない。
 だが、それは相手を下に見た時にのみ出る態度だ。
 高圧的に言えば従わせられる、というのが経験則になっていなければい
いのだが。
 だって、治療に従うことと感情は別。
 この先生なら、と思えてこそ。
 白内障の手術をする予定だった叔母は、その日の早朝、私に電話してき
て、娘に病院に送ってもらうつもりだったが、一人で行き、母親は体調を
崩して今日の手術は無理だと伝えてもらうことにした、と言った。
 良く見えている方の目から手術するということを、叔母に納得していな
かったのだ。
 私の場合は、ある治療に関して、
「ほかの仕方でしてくれる医者はいない。いたら、紹介状を書きます」
 と言われた。
 その冷徹な言い方。
 幸い、私は見つけてきて、転院を果たした。