直売市

 年賀状を投函した帰り、駅前に直売市が立っていたので、のぞいた。
 蓮根(れんこん)が、水の入ったビニールの中でちゃぷちゃぷ揺れている
を見るのは初めて。
 横にいた高齢女性に、なぜ蓮根が水に浸かっているのだろう、と話しかけ
られた。
 私は驚かない。驚かないのは、声をかけられることではない。
 普通、見知らぬ人に話しかける時は「すみません」とか言うはずだが、こ
ういう場面ではいきなり会話が本題から始まる。まるで一緒に買いに来た者
同士のお喋りみたいだが、これ以外を経験することがないので慣れたし、私
は好き。
 さて、聞かれて私は頭を捻った。
 女性は、蓮根は水の中で育つから理にかなっていることになるのだろう、
と勝手に納得する。
 相槌を打つ私。
 が、
「すみませーん」
 客対応のためにワゴンの後ろを行ったり来たりしている男性店員を呼んだ。
 やはり水に漬けてあるのは、真空状態で売っているのと同様、鮮度を保つ
ためで、買って使わない分は水に漬けておくといいらしい。
「でも、申し訳ないけど、ここって蓮根の産地なんですか」
 私は不躾な質問をした。
 すると、実は昔から蓮根の名産地なのだと言われる。
 ただ二種類あるうち、こちらは棚田を蓮根畑にして試している農家さんの
で、もっちりした食感。もう片方のが昔からの名産地ので、シャキッとした
食感。
「もっちりとかシャキッとか、わかるのかなあ」
 私が呟いたら、隣の女性が、
「わかりますよ」
 もちっとした方が煮るのに適していると教えてくれる。
 蓮根は節の細くなった部分と中央部でも味が違うと、これは、この女性と
男性店員の意見が合った。
 説明を聞いたこともあり、買うことにして、店員に選んでもらう。説明は
わかったが、選ぶ目を持ち合わせていないと自覚する者の謙虚さである。高
齢女性は自分で選んだ。
 私は、ほかに、手作りコンニャクと干し柿を購入。
 干し柿は天日干し。
 だが、三種類あるので、再び男性店員に訊ねたら、生産者の名前を確認し
てから、この人のは大丈夫、とか太鼓判を押してくれた。一番高いのも、ぼ
ったくり価格ではない。どれも、もとの柿の大きさと出来が正当に値段に反
映されていると理解できた結果、私は真ん中のを選択。
 料理でもなんでも松竹梅と三段階あったら竹が一番よく売れると言われる
けれど、まさしくそんな大衆心理ずばりの行動になったことが悔しい。
 けど、梅は柿が貧相で、松は値段で断念した。