湯浴み(ゆあみ)

 サッカーのワールドカップで「ブラボー」を連呼した長友佑都は、帰国後、
取材陣の一人に水を向けられると、苦笑いして「ブラボー」。
 その場面を見た加藤浩次が言った。
「カツアゲだな」
 初めて聞く言葉でも、話された文脈から正しく意味を理解し、そうやって
語彙が増えていくが、私は、カツアゲは知っているが意味はよくわかってい
なかった。加藤が言うのを聞いても、わからない。
 調べた。
 今日わからなかったのは「湯浴みで入浴」。
 鴇田(トキタ)勝彦という七十七歳がTOKAIホールディングスの社長
の座から引きずり下ろされた。
 度を超える経費の私的流用が暴露されたせいだが、その内容の下品さの中
でも筆頭は、取引先の接待と称して自身の趣味を満足させるべく、社有施設
の露天風呂で女性コンパニオンとの混浴を繰り返したことだ。
 日刊ゲンダイは「男性はタオルで局部を隠し、コンパニオンは湯あみを着
用」
 朝日新聞は「女性は湯あみを着用していた」
 首を傾げた私は半分正しかった。
 半分と言うのは、言葉は時代と共に変わるからで、略語もその一つ。今は
パーソナルコンピュータとパソコンが同じだと知らない人の方が多くなって
いるかもしれない。
 小学校の時、体温を測ってくるという宿題で、私はマルをもらえなかった。
 六度三分とか四分と書いたのは、我が家では体温の三十度は省いて言って
いたから。この略し方はまだ世間の常識にまでは格上げされていなかったの
だ。
 で、湯浴み。
 これは、川や海や湯を用いて身体や髪を洗い清めるという行為であって、
その時に着る服は意味しない。それをその意味でも使えると思ったとしたら、
記者の勇み足。
 ところで、「湯浴み着」と言いたかったのだとわかったら、それってどん
な形。
 画像を調べたら、どこかのメーカーの製品が載っているが、そんなのを着
たまま風呂に入るとは思えない。
 旅番組でタレントが身体にタオルを巻いて入るように、コンパニオンもタ
オルを巻いただけだったが、記事にはそう書いてほしくない圧力が「湯浴み」
という言葉を使えと通達したのかも、と思えてきた。しかも、漢字と平仮名
の組み合わせまで指定。
 従うしかない立場だったとしても、明らかな誤用は、そう主張して訂正し
てこそメディアだろうに。
 記者達は、昔、『我は海の子』を聞いたり歌ったことがないのか。
 なくても、教養や雑学がそれを補ってくれるはずだが。

 生まれて潮(しお)に ゆあみして~。

 歌詞の二番の出だしだ。
 私は思い出した。