最後の一着

 観光地で写った自分自身の写真に判然としない気持ちになるのは、職場用
のかちっとした服の中でも比較的カジュアル寄りなのを着て行っても、本当
のカジュアルとは雰囲気が違うからだと気付いてしまったら、フランス人に
付き合って京都や奈良を回る時、トレンチコート風の春のコートは持ってい
きたくない。
 急ぎ買いに行ったのは先月五月の半ば。
 まさしく、そういう上着が活躍する季節だ。
 けど、ない。あるのは、もっと先の季節の服。
 必要に迫られてようやく慌てる私と違い、みんな、早くから買って準備す
るのかなあ。
 用意周到だなあ、と驚くより、探すことだ。
 なんとか見つかった。
 短い丈のジャケット。
 近頃、いつでも、どこでも見かけるから、これで正解だな。
 でも、綿百パーセントなので、アイロンがけは必要になりそう。それは面
倒。
 そんなことを思い、決断できない。
 去年六月に長野に行く時買ったフード付きパーカーでいいことにしようか。
厚手の綿なので、着ない時は嵩張るけど。
 と、店員が、
「丈が長くてもいいですか」
 と問う。
「お客様にはその方が似合う気がするんですけど」
 そうだった。
 私の身長だと、コート類はロングの方が似合うのだ。忘れていた。
 裏から出してきてくれたのを着ると、まるで私のための一着のよう。
 手洗い可能なポリエステルは軽いし、小さく折り畳める。
 逡巡の理由になるのは値段だけ。
 いや、淡いベージュ色もそうだった。
 私色だが、トレンチコート風の春のコートと似た色なので、新たに買うと
いうわくわく感が起こらない。
 二色展開のシルバー色の方はかなり前に売れてしまったらしいが、モデル
が着用した写真を見せてもらうと、黄色いファスナーや紐が良いアクセント
になっていて、可愛い。
 調べてもらったら、京都の百貨店に一点だけ残っている。
 その日は木曜で、すぐに発注しても、到着は二日後の土曜。
 私は翌週の月曜日に着たいので、ぎりぎりだが間に合う。
 客がかくも急いでいると伝えてくれたおかげか、土曜の朝、開店前には到
着したらしく、開店直後に電話をもらい、すぐに行き、二色を着比べ、店員
もシルバーの方が爽やかだと言ってくれたので、迷いなくそれを購入。
 残り物には福がある、を地で行った。
 が、考えてみると、売り場から引き上げられる寸前のを買うのは、これで
三度目。
 本当に気に入ったのが売れ残ってくれていたのは有り難いが、心臓に悪い
から、こういうのは、もうやめにしたい。