時が止まったクローゼット

 着る服は、その人のイメージを表わす。
 でも、多彩なコーディネートを心がけすぎ、たった一度でも「いけていな
い」服装をしたら、それがあなただと他人に記憶される。
 だから、本当に似合う服を数少なく着回しして、小物で変化を付ける。
 そんな記事に頷いた私は、パッと見て把握できる以上の数を持つと管理し
きれない自分自身をわかっているからだろう。
 それに、気に入った物を見つけるまでの労力を考えたら、少しでも長く着
たい。
 いきおい、流行は追わないことになる。
 しかし、時の経つのは早い。
 結構着ているなあと思ったら、買ってもう五年、なんて、ざら。
 先月、長野に行く時、戸隠神社の奥社まで歩く日用にはカジュアルなパン
ツ、となったらコットンパンツしかなく、選択肢は白かカーキの色選択のみ。
 同じのを色違いで持っているのだ。
 ちょっとくたびれてきているなあ、と感じてはいたんだけど。
 買って十一年目なら、当然か。
 さすがに真剣に後継のパンツを探すことにした。
 希望は、くるぶし丈。
 ストレートか裾に向かって細くなるシルエット。
 大それた望みではなかろう。
 ところが、ない。
 くるぶし丈にこだわるなら、トイレに行った時、裾の扱いに困るワイドパ
ンツか、裾がゴムやリブ編みで絞られたジョガーパンツ。
 ストレートは、
「今年は、すっきりした丈のが多いです」
 と言われて困惑。
「すっきり」を「丈が短い」と同義語で使うとは、なんと大胆な。
 今年は見つからないと諦めつつ、別の店で聞いたら、店員は吊してあるパ
ンツを見まわし、
「うちにはないですね」
 と、あっさり白旗。
 私の希望を変質させてこようとしてこないところが好感が持てた。
 そして、
「お客様は、足は長いですし」
 と笑顔を向けられる。
 結局、別の店で、肌にぴったり吸い付く細身のスキニーパンツを買うこと
にしたが、そこでも言われた。
「足が長い」
 腰の位置が高い。
 だから何。
 つまり、足の長さが幸せに直結するということでもないのなら、
「これまで裾上げしたことがないんじゃないですか」
「はい」
 という会話が成立する程度以上のどんな恩恵があるのか、という疑問であ
る。
 が、珍しく、売るのが商売の店員ではない職場の女性にも言われた。
 もっとも、
「なのに」
 と言葉が続き、かつ、
「顔も小さいし、化粧をちゃんとしたら、もっと綺麗になるのに」
 常時マスクで、化粧に駄目出しされたんですぜ。
 聞き流す強さがあって、よかった。
 ちなみに、スキニーパンツは、色違いで二枚買った。