三つ星ホテルより

 七月に来日したフランスの友は、大の日本好き。半年間京都に住んだこと

があり、結婚した夫は彼女に感化されたし、小学生の子供達は日本の素晴ら

しさを聞かされて育ち、一家の日本贔屓は折り紙付き。

 新型コロナウイルスのせいで延期になっていた旅行がようやく実現した彼

女達に会いに行く日、私は朝早く目が覚めたので、さっさと家を出た。私の

移動時間を考慮して会う時間を遅めにしてくれた彼女は、本当ならもっと早

くから一日を始めたそうな口ぶりだったのだ。 

 京都河原町駅からホテルへは地下鉄、徒歩、バスの三つの手段がある。

 朝は道路の渋滞はないだろうからバスでも大丈夫そうだが、そういう不確

かさは嫌なので、地下鉄か徒歩。所要時間はほぼ同じらしく、私の足なら歩

いた方が早いだろう。

 でも、ホテルに着く前に一汗掻くのもなあ。

 地下鉄のつもりでいたけれど、小一時間早く着いたら、まだ蒸し暑くなる

前だし、道を急ぐ通勤客もいない。

 歩くことにした。

 ホテルに着くと、汗が一気に噴き出るということはない。まあ、空調のお

かげはある。

 実際、友の部屋に入り、もわっとした空気に出迎えられると、早足で歩い

てきた余韻が残る私の体には打撃だ。

「空調は入れないの」

 困惑して問う私は、

「エコのため」

 という答えを聞き、何も言えなかったが、夜、帰宅後、メールを書いた。

 大人は自分の志向を貫けばいい。体調が悪くなったなら、その時、学ぶだ

ろう。

 でも、子供は。

 親の方針に従うしかないが、体調不良を自覚できないことも多い。

 熱中症で搬送される患者の急増。

 その発生場所は住居が最多で、エアコンをつけていない場合が圧倒的。

 暑さを実感できなくてエアコンを使いたがらない高齢者が問題になってい

る。

 筋肉量が少ない高齢者と子供は体に水分を体に貯めにくいので、喉が渇く

前に水分補給することが大切。

 毎日のように見聞きする日本の現状を伝える。

 メールを読んで彼女がどう行動するかまでは気にしない。

 ところで、もう一つ驚かされたことがある。

 彼らは部屋の中でも靴を脱がない。

 バリヤフリー設計ゆえ段差は目立たないが、玄関と部屋の境は明瞭だ。

「畳じゃないから」

 彼女の夫が言ったが、絨毯でも土足は駄目だろう。

 しかし、湯豆腐の店では座りづらい畳部屋を所望した彼。

 中途半端な西洋化が齟齬を生むと見た。

 そして私は。

 外国人宿泊客が多い三つ星ホテルより旅館か民宿を選ぼう。