デザートと言わないで

 アメリカで先月投稿されたTikTok動画が話題になっているという記事を読
んだ。
 外科研修医の女性が帰宅後すぐに台所に立ち、食材を煮込んでいるあいだ
はその横に立ちノートパソコンにて仕事、料理ができあがるまで、がその内
容だ。
『十三時間の勤務を終えて帰宅すると夫が夕食を期待している』というタイ
トルなので、
「夫は料理しないのか」
 という類いのコメントが殺到したのは嬉しかっただろうと思いきや、女性
は、
「確かに夫はソファーに座って待つだけですが、それは私が夫には料理をす
るよりソファーで寛いでほしいから」
 という説明を載せた。
 だったら、タイトルの付け方を間違ったね。
 そんなことより、私にはもっと気になることがあった。
 彼女はなぜ緑のスクラブ(医療ウェア)のままなのか。
 服の公私混同。
 かの国ではそれが普通なのか。
 日本のホテルの部屋に上がり框(がまち)がしつらえられていても、高さ
が中途半端だと、そこで靴を脱ぐというサインを読み取れず、家でも土足と
いう習慣が顔を出してしまうのは、そういう国から来た人だから。
 ただ、医療ウェアに関しては、アメリアの元記事によると、やっぱりそれ
に関する質問が一番多かったらしく、ああ、よかった。
 なんか自分の軸がないみたいだが、人の国のことは自分の感覚のままに判
断する前に一歩立ち止まった方がいいと思っている。
 でも、黙り込まない。
 話す。
 フランスの友達一家が帰国する前夜、一緒に鰻を食べた。
 荷造りがあるし、翌朝のフライトは早く、早く寝なきゃ、と聞いていたが、
食べ終わると、それからが本番みたいに話が尽きない。
 彼らが腰を上げないなら、私は気にしない。
 家に人を招いたら、一人一人と玄関で立ち話をし、それもかなり長い会話
になるので、皆が中に入るまでに時間がかかる。
 Messengerで随分長く話し、
「あ、もう買い物に行かなきゃ」
 と相手が言っても、その相手がまだしばらく話を続ける。
 彼らの「もう」「すぐ」は私の「もう」「すぐ」とは違うのだ。
 と、隣のテーブルで折り紙や紙で遊んでいた子供が、
「デザートは」
 と聞く。
 私はイラッ。
 デザートなしの食事はない、というのもフランスの常識である。
 ゆえに強迫観念のようにデザートと言う彼ら。
 私は日本の食事ではデザートが必須ではない理由を説明。
 素直に納得してくれたので、説明させられることを面倒だと思って苛つい
た自分自身を反省した。