本物の「母乳」だと偽りインターネットで販売されていたのは、母乳
少々に粉ミルクと水を加えたものである可能性が高く、最大で一千倍も
の細菌量が検出できたとか。
買った人は、得体の知れない所から買うのであっても「母乳」だから、
名の通ったメーカーの粉ミルクより良し、と判断したんだろうなあ。
去年出産した友のことを思い出す。
彼女と私は、それぞれに心の中を覗き込んだような深い話を書き合う
ことが多い。
それが楽しい、と言ってくれる友。が、子供が生まれてから、自分の
考えをしっかり文章に構築して書く時間がないとメールが来た。
そんな中にも彼女の心の声はある。
曰く、息子が泣き倒して、どうしたものかとおろおろする日々が続き、
母乳不足ではないかという意見が浮上し、とにかく母たる自分が無理矢
理食べて、しっかり寝ること、ということになったそうで、
「食べるしかない」
二度もこの言葉が繰り返され、締めの言葉は、
「頑張ります」
もうさあ。私までつらくって。
彼女もそうだが、彼女の母親も保育士。園児には普通に粉ミルクを与
えているだろうに、それがまったく検討されなかったらしいことから、
彼女の母親は、母乳が唯一の正解、という考えの人なのだろうと推察が
つく。
完全母乳はビタミンDが不足しがちで、欧米ではその予防に使われる
製剤が、日本にはない、という新聞記事を、過去に何度か目にしたこと
がある。
母乳が足りないなら、粉ミルクを足せば、母乳が出るよう必死に食べ
る苦痛から解放されるし、子は腹が満たされるし、しかもビタミンD欠
乏ゆえの低カルシウム血症やくる病も心配しなくてよくなるとしたら、
「瓢箪から駒」じゃん、と理論派の私。
が、まずはちゃんと調べた。
すると、母乳だけの乳児が生後三日目に痙攣を起こしたという医師の
報告と遭遇。友の子も三週間目に手足が変にピクつき、大病院で精密検
査を受けたと涙の報告をもらっていたので、私は意を決して、母乳だけ
だとビタミンD欠乏になることもあるみたいって知ってる、と書き、信
頼できそうな記事のURLを三つ伝えた。
だが、心理学の正常性バイアスや、精神科医の名越康文が言った「人
の精神は現実逃避のためにある」という言葉から閃いたことなどを延々
と書いたあと、最後にちょこっと触れただけ。
非婚・子なしの、所詮は部外者が何よ、と反撥されることはなく、混
合授乳にしたと連絡があった。
でも、今思い返しても、あのメールを送るのは覚悟がいったなあ。