File Zilla(ファイルジラ)

 技術の進歩はすごい。
 インターネットを介してクライアントとサーバ間でファイルの転送をする
FTPなる仕組みも、そう。
 でも、個人的には未知のことにはなるべく巻き込まれずにいたい。
 しかし、七月に来日したフランス人の友から、このFile Zillaをダウンロー
ドしてくれとメールが来た。
 彼女の夫は旅行中ずっと重たいビデオカメラを担いでいて、撮った動画は
あとで編集して旅日記としてまとめるのが趣味らしい。
 今回は三週間の日本旅行なので編集に時間がかかると言われていたが、よ
うやくできたビデオ日記を私に送ってくれるのにFile Zillaを選んだのは、ビ
デオ関連の仕事をしている夫にとっては自然な選択だったのだろう。
 十五日間だけアップロードしておくと言われたら、なるべく早く、もう入
手保存したと報告したい。
 送られてきたURLはウィンドーズ用だったので、Mac用のを探して、
ダウンロード。そのぐらいの判断力はある。
 ところが、ソフトが開かない。
 二度三度試すが、駄目。
 アップルケアに電話したら、担当者からこのあと時間はあるかと問われ、
受付の最終時刻まで四十分あるのに、それも超えてしまいそうってことなの。
 小一時間かかったので、担当者の予感は当たった。
 ソフトのアーカイブファイルが解凍できないのはFile ZillaのMac用が不
完全だから。安心できる無料ソフトを入手し、File Zillaのページが開くとこ
ろまで見届けてくれる。
 アップルの純正品でないことの相談にここまで対応してもらっただけでも
感謝だが、ここからは私一人で、と優しく背を押されると、それは当然のこ
となのに、途端に心細くなる。
 ホストやユーザー、ポートの空欄に何を入れたらいいの。
 友にメールで訊ね、教えてもらったURLをホスト欄に入力したら、旅日
記のファイルが可視化された。
 もう夜。
 でも、我が能力を考えれば、ここで作業を中断せず完了してしまう方が安
心だ。
 すると、ビデオ日記のダウンロードに深夜一時過ぎまでかかったのだった。
 一時間四十八分の長編ビデオ。
 全部見るのは後日にしたが、バックミュージックも付いて本格的な仕上が
りには感心させられた。
 七夕の日の平安神宮で風鈴が涼やかに鳴り響いていたのをまた聞けたのは、
さすがビデオだ。
 ただ、七月の蒸し暑さは動画でも伝わらない。
 いつかそれも追体験できる技術はできるだろうか。