医者の言葉

 去年、叔母が骨折で入院した際、医療機関新型コロナウイルス対策の真
っ最中で、娘ですら病室に上がれなかったら、家族でない私は見舞いに行け
るわけがない。
 叔母にショートメールを送った。
 初めは体調はどうかなど病気のことを訊ねたが、そのうち、今朝は空が澄
んでいるとか暖かいとか天気のことを書くようになった。叔母のことを気に
かけていると伝えるためだからで、天気の話題はいつでも安全牌。
 ところが、退院後しばらくして普通の生活に戻った叔母から、当時は私か
らのメールがあまり嬉しくなかった、と告白された。
 自由に外に出かけられる人の別世界の話を聞かされている気になったのだ
とか。今になって振り返ると、当時の自分は心がひねていたのだろう。
 叔母は退院したが、私は、朝、不定期にショートメールを送る習慣を続け
ている。やっぱり、天気の話が主だ。
 叔母からの返信も似たようなもの。
 たまに、
「今、家ですか。時間があったら電話していいですか」
 と打診があり、そういう時は叔母の長話に付き合う。
 先日、この叔母と叔母の娘一家と会った。
 その前に会ったのは新型コロナウイルスが始まる前だったので、久しぶり
に楽しいひととき。
 翌日、叔母から、今から電話していいか、というメール。
「いいよ」
 叔母は本当は昨日聞きたかったが話題としてふさわしくないかと思い口に
しなかった、娘にも話していない、と前置きすると、二週間ほど前に注射で
痔の処置をしてもらって以降、ずっと膿のような物が出て、診察に行った時
に医者に話したら、
「そういう人もいると言われた」
 と語る。
 医者に相談したのに、叔母の不安は払拭されなかったのだ。
 叔母の話を聞きつつパソコンで検索していた私は、
「浸出液と言うらしくて、傷口が良くなっている証拠なんだって。徐々に治
まるけど一ヶ月ぐらいはかかるみたい」
 と伝え、
「ああそう!」
 叔母は声が明るくなった。
 一方、私は、
「なんで医者がそう説明してくれないかなあ」
 と苛立つ。
 だって、浸出液なる得体の知れぬものに困惑している患者に医者が「そう
いう人もいる」しか言わないって、どうよ。
 私がささっと調べても似た説明が複数得られたということは、この分野で
は当たり前の経過なのだろう。でも、患者が不安がっているなら、
「それはこういうとだから」
 とか、面倒がらずに言葉を足してこそ、その道のプロではないか。
 言葉一つ。
 特に医者の場合は。