間違い電話

 たまにかかってくる間違い電話。
 またすぐにかかって来る時は、相手が番号自体を間違えている。
 普通は、押し間違えただけなので、再度かかってくることはない。
 今朝、家の電話が鳴り、呼び出し音が一度鳴ると、私はすぐに受話器を取
った。
 呼び出し音が二度鳴って切れることがよくあるからだ。
 その後、半時間ぐらいしてまた電話が鳴った時があり、今度はすぐには切
れないので出たら、いらない靴はないかと問われ、引き取りに来てもらう約
束をしたが最後、金製品など金目の物を出せ、そうでなければ手ぶらで帰れ
ぬ、と玄関先で居直られることになる押し買いの電話だった。
「あー、ないです、ありがとう」
 相手の言葉を遮って受話器を置いてから、さっき二度鳴って切れた電話は、
この電話をかけるために事前に在宅の有無を調べるためだったのかと思う。
でも、こちらに応答させないのだから、それは変。
 こちらからかけ直したら相手の思う壺になる詐欺目的だったとしたら、あ
いにく、うちの固定電話には相手の番号が表示されない。
 この番号が使われているか否かを調べたいだけの場合もあるらしいが、目
的が不明なので、その方が気持ち悪い。
 なんにせよ、二度鳴って切れる前に出たら何かわかるかも、と出たことが
ある。ざわざわとした音が聞こえるだけだった。
 けど、その後も、固定電話は、一度鳴ったら、すぐ出ようとする私。
 今朝もそうした。
 すると、
「おはよう、田中です」
 まず挨拶、そして名を名乗って、すこぶる好印象。
 だが、私は言わねばならない。
「あのう、間違いだと思いますが」
「えっ、すみません」
 これまた礼儀正しく、品位がある。
 もう十時半なので、相手を起こす目覚まし代わりの電話だったのではある
まい。
 そのまま話を合わせればよかったかなあ。
 話が噛み合わなくなったら、田中という名の男友達と話しているつもりだ
ったことにすればいい。
 そんな想像をさせてくれたので、今日の間違い電話はちょっと楽しかった。
 聞き慣れない男性の声と言えば、先日は、
「矢車さん」
 いきなり確かめられ、
「どちら様ですか」
 聞き返したら、高校時代の同級生だった。
 来る同窓会には、出席できることになったら連絡させてもらう、と返信し
ておいたが、来ないのか、と問われる。
 その電話をもらった日の昼間に都合がつくことになったが、面倒なので欠
席のままでいいか、と思いかけていた私は、
「出るわ」
 と答えたのだった。