迷惑電話じゃありません

 年賀状だけの付き合いになって久しい中の一人が、今年、近くまで来る
ことがあれば、気が向いたら電話をくれ、と固定電話の番号も書いてきて
くれた。
 彼女の町で夕方には用事が終わる予定が決まったので、彼女の都合を聞
くべく、平日の夕方、電話した。
 応答がない。
 仕事していて、まだ帰っていないのかなあ。
 その後、一時間ごとぐらいに電話するが、繋がらない。
 八時半過ぎに今日はこれで最後にしようと電話したら、「念のために名
前を言ってくれ」というようなアナウンス。
 名乗ると、即、彼女が出た。
 私の番号は登録にないので出なかったのだとか。
 そういう人は二人目だ。
 一人目は従妹。
 用があって電話するも応答がないので断続的に電話し続け、親類なので
夜の十時を回ってからも電話したら、ようやく従妹の夫が警戒心顕わな声
で出た。
 すぐに従妹が代わり、迷惑電話だと思って出なかったが、あまりにしつ
こいのでとりあえず出てみようということになった、と話す。
 うちの電話番号はずっと変わっていないのに、登録せず、電話にも出な
いんだ。
 留守番電話にしておき、相手が伝言を吹き込み始めたら、その内容次第
で途中で応答する、というのが必要な電話まで排除しない対策ではないの
か。
 もし家族に命に関わる何かが起こり、誰かから緊急の電話がかかってき
ても、知らない番号は無視する、というルールを押し通して後悔しない覚
悟はあるのかなあ。
 フランスの地方に住む友人が、「頻繁にかかってくる迷惑電話は本当に
うんざり。電話ハラスメントだ。なぜ政府は何もしない」というような文
言がポスター風にデザインされたのを見つけたようで、フェイスブック
掲載していたが、私がパリにいた頃よくかかってきたのは、私の電話番号
が当選した、という電話だった。
 日本だと、いらない靴を引き取らせてくれ、という電話。
 こういう電話業務の仕事しか見つからなかったのかも、と電話口の相手
のことを思うから、
「あ、ありません。ありがとうございます」
 それ以上話させぬよう言葉を畳みかけて電話を切るが、口調は明るさを
心がける。
 友とは会えた。楽しいひとときが過ごせた。
 でも、迷惑電話に関して、私に迷惑電話をかけてくる悪意ある人達は言
葉で対抗できる場を与えてくれるが、私の番号が登録にないからと電話に
出ない友人知人はそうではないので私にとって遙かにストレスで、苛立た
されることがわかった。