ドライブイン(フランス旅行記)

 今回、私は旅の大半をブルターニュ地方で過ごしたが、パリから片道
四百キロ以上の往復を、マダムDがアッシー君になってくれた。
 途中、昼食やトイレ休憩のためにドライブインに立ち寄る。
 初めてのドライブインでは面食らったなあ。
 え、こんな所にニホン人。
 驚いたが、フランス人と結婚しているニホン人は多いし、私のように
フランス人と一緒に旅行している人もいるから、驚くには当たらないか。
 しかし、店内を見渡すと、あっちにも、こっちにも、ニホン人。
 うわっ、不気味。
 そんなことを思ったなんて、いけない私よね。
 けど、そう感じたことを打ち消したら、偽善になる。
 なんでそういう印象を持ったんだろうと、彼らを見ながら考えて、わ
かった。
 十人、二十人という数のニホン人が、仲間同士、声高に会話をするで
もなく、静かにうごめいているさまが異様に見えたのだ。
 気がつかないあいだに、ひたひたニホン人が店内に満ちていた、と思
ったら、いつの間にか誰もいなくなっている。
 ほどなく次のバスが到着して、新たにどっとニホン人が吐き出され、
一人、二人と店内にひっそり忍び込んでくる。
 ニホンにいる時とは大違い。可能な限り気配を消そうとしているよう
で、戸惑わされたのだ。
 だが、よく知らない国では、不愉快に傍若無人になるより、不気味に
静かな方が周りに与える害が少ないし、自分達が不必要に害を受ける可
能性も少なくなると考えるなら、賢い戦略かも。
 それでも、トイレに行ったついでにお菓子なんかを買いたかったら辛
うじてそのぐらいの時間はある、という程度のトイレ休憩の短さは、彼
らのために残念ではあった。
 なんかブロイラーの鶏みたいに扱われていないかい。
 でも、トイレ休憩は限りなく短く、その分、目的地で少しでも長く、
と望むのがバスツアー客の気持ちかなあ。
 そんな風に事情が飲み込めると、私の中に素朴な好奇心が芽生えてき
た。
 このドライブインでトイレ休憩ということは、あのユネスコ世界遺産
モンサンミシェルに行くのよね。ほかにもどこかに行くのかなあ。み
なさんはニホンからのツアーなんですか。それとも、パリで個人的にツ
アーを予約したんですか。
 町で誰かに道を訊ねたい時、この人だったら親切に教えてくれそう、
という人を五感で探し、標的を定めて"その人"に近づく。
 そうしようとしたけれど、誰も彼もからだの周りに高い壁を張り巡ら
しているようで、声をかけられる人を一人も見つけられなかった。
 なんでだろう。