花粉の季節

 生まれた順番で性格が作られる、という説は結構当たっている気がす
る。
 真ん中ッ子は、長女といる時は妹の、妹といる時は姉の立場に立たさ
れる不安定さが特徴。そういう複雑な立ち位置に鍛えられ、人とうまく
付き合う能力が磨かれてゆくのだとか。
 英語の個人レッスンをしている女三きょうだいの真ん中は、中学二年
生だが、確かに、友達の数は一番多いと姉と妹から認められている。今
年のバレンタインデーには四十個以上「友チョコ」を手作りしたと言っ
ていたっけ。
 私が英語のレッスンに行く時刻に彼女達の母親はまだ帰宅しておらず、
誰かが私にお茶を出してくれるが、小学生の末っ子がキッチンから、
「やかんに入ってる冷たくないのでもいい?」
 と叫ぶと、真ん中ッ子が、
「氷、入れたげェや」
 大声で返す。
 長女がいたら、長女も同様の発言をするので、やっぱり気配りが備わ
っているのは長女と真ん中ッ子である。
 が、この真ん中ッ子。女きょうだいを「姉妹」と書くと知ると、
「なんで姉と妹だけなん」
 その言葉に秘められたやるせなさを思い、私は何も言えなかった。
 ところで、彼女は家族の中で一番のアレルギー体質。
 祝日の朝、仕事が休みの母親が掃除しておいてくれた部屋で、丸いち
ゃぶ台に横に並んで座りレッスンを始めると、鼻をむずむずさせ、
「あ〜、掃除したせいや。部屋の中が埃っぽい」
 彼女がぼやく。
 掃除洗濯料理皿洗いを女の仕事と決めつけるつもりはない。
 けど、自分は手伝いもせず、綺麗にしてもらった部屋で、掃除のせい
で体調不良と文句を言う。つまり君は、アレルギーゆえ掃除はノータッ
チという一生を送る予定なのかね、と言いたくなる。
 まあ、彼女の未来は彼女が解決すればいい話だが、なんかちょっと面
倒臭い。
 と思っていたら、先日、ちゃぶ台で横に座っている私に、彼女が言っ
た。
「先生、花粉、いっぱい運んできたやろ」
 鼻をぐしゅぐしゅ言わせ、鼻先を手でこする時間を随分経てからの発
言だったが、私は沈黙。
 どんなに控えめな口調でも、普通に歩いてきただけの私が病原菌みた
いに言われたことに代わりないからだ。しかし、服に付いた花粉にも反
応するから花粉アレルギーだという知識は私にもある。
 うーん。
 またまた、ちょっと面倒臭い。
 アレグラを処方されてアレルギー仲間になったはずの私がこんな反応
でいいのかい。
 実は、私はアレルギーではなかった。
 病名が特定できている彼女の方が羨ましかったりして。