それでは嫌われる(フランス旅行記)

 今回の旅のアッシー君、マダムDは、彼女の言葉とは裏腹に、ブルタ
ーニュで私が友人宅に泊まっても、私が彼女と一緒に行動できるチャン
スは多々あると期待しているらしいとわかって、
「えーっ」
 そして、私の友達ということで、彼女が毎日マダムB宅の食事に招か
れるようになると、三日後に昼食が終わるのが遅すぎると文句を言い出
し、私はまたもや、
「えーっ」
 彼女の存在が、不必要に私の神経を波立たせる。
 こんなことなら、一人でTGV(新幹線)で来ればよかったなあ。
 けど、私にもずるいところはあった。
 私が来る二週間前におとうさんが急死したマダムBは、それでも私を
家に泊めたいし、私と喋りたいが、私をあちこち連れて行けるだけの気
力はなく、また、私の滞在四日目は、もし生きていたらおとうさんの八
十四回目の誕生日となるはずで、私も交えて家族で盛大な誕生パーティ
を計画していたのに、庭の花や買った花で豪華なブーケを作ってお墓参
りに行く日となり、私は、マダムDがいなければ、一緒にお墓参りに行
っていた。
 でも、マダムDがいるので、その日は朝から一緒に出かけないかと彼
女を誘った。
「待ってました」と小躍りしてくれるとわかりすぎるだけに、そういう
彼女の心に付け込んで、都合のいい時だけ彼女を利用することになるの
が心苦しい。
 それでも実行するのをためらわないから、私はずるかったのだ。
 しかし、恐縮する気持ちは吹っ飛ぶことになった。
 マダムBのダンナが前夜時々悲しそうな顔をしたのは、昔、悲しいこ
とがあったからね、とマダムDが言い、私はその場面を思い出した。
 夕食後、私はもっぱらマダムBと話し込んだが、それというのも、マ
ダムDがムッシューBに話しているのは、私が何度も聞かされた彼女の
昔話だったから。
 外国人アーティストの卵を招聘するプロジェクトの対象者に選ばれて
京都に滞在中、妻帯者のニホン人から豪華な着物をプレゼントされたの。
花嫁衣装みたいで、怖くなって返したけど・・・。
 彼女はブルジョワジー出身。
 よって教養豊かだし、彼女が育った家庭の話を聞くのもおもしろい。
 だが、彼女と同じ社会に生きる人達も、私同様、彼女の話を無邪気に
おもしろがれるかどうか。
 だいたい、初対面の相手じゃない。
 当たり障りない話をしつつ、どういう相手か探りを入れ、共に楽しめ
る話題に到達してこそ大人ってモンでしょうに。
 なんで、いきなり自分のパワーをひけらかすかなあ。