追わない

 情報は次々生まれる。
 すべてを知るのは無理でも、なるべく多く、と思うと、知らない情報
の量に圧倒されて、青ざめる。
 私がその罠にはまったのは、知識や情報が私の劣等感となるポイント
だったのだろう。
 だが、尽きない欲にせき立てられていたのでは、
「きりがない」
 それに
「なんか変」
 心底そう思えた時、その道からはずれてみる決心がついた。
 本当は、そこに至る前に、情報欲をコントロールして、適当に流せた
らよかったのだが。
 私には、もう一つ、「流す」と決めたものがある。
 友人関係だ。
 疎遠になった相手のことを、
「なんでそうなったのかなあ」
 と思い返さないし、
「いつかまた、昔の関係に戻れたら」
 と願いもしない。
 私は葉っぱ。
 川に落ちて、川を流れている。
 別の葉っぱが落ちてきて、一緒に仲良く川下り。
 だが、激流に巻き込まれたり、どちらかが大きな岩にぶつかって、手
を伸ばしても届かなくなる。
 見えなくなる。
 それを嘆かない、ということだ。
 私はフランスで初めて住んだブルターニュ地方でホームスティしたが、
先方とそりが合わず、夏のバカンス中は私を泊められないと上司のムッ
シューLに申告がいった。
 毎週末ムッシューL宅に滞在させてもらっていたけれど、マダムLが
出産間近で、私を受け入れられない状況のムッシューLは私の住居を探
し始めた。
 と、話を聞きつけた職場のアンヌが、
「うちにいらっしゃい」
 荷物を持ってアンヌ宅に到着した朝、初対面のダンナと子供達との挨
拶もそこそこに、彼らはバカンスへ。私は鍵を渡され、いきなり留守番。
 そんな無条件に私を信用していいんですかね。私の方が心配になる。
 アンヌ一家で過ごした夏は至福だった。
 帰国後も、旅行で戻れば、泊めてもらう。
 しかし、私の渡仏が間遠になり、音信が途絶えた。
 去年の二月に久しぶりに渡仏し、ムッシューL宅からアンヌに電話を
かけると、出たのは別人。インターネットのイエローページで調べるも、
探し出せない。
 引っ越したとはどうしても思えず、帰国後に再度調べたら、ダンナで
はなくアンヌの名前で新しい電話番号が見つかった。やっぱり住所は以
前のまま。
 手紙を送り、すぐにメールが来て、旧交が復活した。
 そして八月。
 メールを送った翌日に、
「この週末は忙しいので、来週、返事を書くわ」
 短い返信が来た。
 が、それっきり。
 なんで、と悲しくなるけど、たぶん、彼女との縁はもう完全燃焼した
のだ。
 続きを求めた私は、欲が深すぎたのだ。