「今でしょ!」先生、ぜひ、もう一度

 言葉は、思いを伝える道具。
 言葉をたくさん持っていると、それだけ気持ちを伝えやすくなる。
 つまり、言葉は量。
 パリに住んでいる時、国費留学中の院生に、フランス語力を上げたい
なら、
「一日に単語を一つ覚えればいいんですよ」
 と言われた。
 一日にたった一つ。わけないじゃん。
 厭味でなく、心の底から、彼はそう考えていたのだと思う。
 でも、私には、もうわかっていた。
 その理屈が当てはまる人と、当てはまらない人がいる。
 私は、中学でスタートした英語は水が染み込むように吸収できたが、
大学で学んだフランス語は、英語の勉強方法を応用すればいいだけなの
に、同じようにはいかなかった。
 そんな私が「一日一単語」を続けたら、三十日後には三十の単語が身
につく・・・。
 やる前から断言できます。
「無理」
 ならば、覚えたい単語が入った例文で印象深く記憶する方法は。
 これにも、私は懐疑的。
 この一文と次の一文になんの脈絡もない、というのが、毎回、砂の城
を作っては、波でゼロに戻されるような徒労の感覚になってしまうのだ。
 しかし、興味を惹かれる内容の文章ならば。
 知らない言葉をわからないまま放置できなくなる。
 学ばずして、学んでいることになる。
「本を読め」
 という言葉に込められた真意は、そこにあるのだろう。
 ニホン語には漢字という強敵があると思うかもしれないが、アルファ
ベットの国でも、「読み書き」に苦労している大人は多い。
 フランスのニュース番組で、毎年八万人ほどの大人がフランス語の読
み書きレッスンを受けていると報道していたし、私は読む方が聞くより
理解できるので、知人のダンナに、
「今言ったことを書いて」
 と頼んだら、妻にいちいちスペルを確認していた。
 先日、「今でしょ!」先生こと林修が、高校中退者達にテレビで公開
授業をしていて、あとで、生徒の一人が、
「本を読んでみようかなという気になった」
 と感想を述べたのは嬉しかった。
 けど、本を手にするも、すぐ挫折、とならないかなあ。
 授業は、途中から林の人生観を語るような講義になり、それはそれで
悪くなかったが、勉強嫌いが今から改めてニホン語と取り組もうとする
時に、道を照らす灯りとなってくれるような具体的な拠り所は何も示さ
れなかったからだ。
 漢字が読めたら得だよね、と伝えるなら、労働基準法の一節。
 言葉の力に惚れてほしいなら、質の高い、ルビ付き児童文学。
 そういうのを教材にして、もう一遍、公開授業をしてほしい。