歌は曲に乗って

 何かに集中し始めると音が邪魔になるので、音楽がなくても生きられ
る、と思っている私。
 なのに、パソコンのiTunesにCDをまるごと保存したのが多数あるの
は、集中するまでは音楽を必要とすることが結構あるから。だったら、
「音楽がなくても生きられる」とは言えないかも・・・。
 ただ、ニホン語の歌は見事にゼロ。
 厭味に英語の曲ばかりかと思いきや、先日買ったペンタトニックスは
偶然アメリカのグループだったが、あとはサウンド・オブ・ミュージッ
クのみで、それ以外は全部フランス語。
 フランスのニュース番組でごく稀に、売れているCDや歌手に言及す
ることがあり、すると私はYouTubeで確認して、気に入れば、私の誕生
日プレゼントに送ってほしいとフランスの友人に頼むのだ。それも、イ
ンターネットで曲の冒頭部分を視聴したりして、ほしいのはこのCD、
と指定する厚かましさ。けど、それだと絶対私が嬉しいプレゼントだか
ら、相手も安心して贈ってくれる、とこれまた厚かましく解釈。なんに
せよ、かくてフランス語のCDが溜まってゆくのだった。
 外国語の歌は、聞き取りの勉強になるが、言葉を音楽として聴き流す
こともできる。
 これがニホン語だと、つい、歌詞に聴き入ってしまいそうで、だから
私はニホンの歌に手を出さないのかも。
 今のお気に入りは、カリブ海のフランス領出身者達からなる男女グル
ープ、La Compagnie Creoleラ・コンパニー・クレオールだ。
 1975年に活動を開始して1980年代に人気を博し、今なおフランス
圏で根強い人気だそうだが、YouTubeで彼らの近年のコンサート光景を
見ると、外人とて歳を取ると声が出なくなるとわかったので、友には全
盛期時代のCDを頼んだ。
 すると、集大成のCD二枚組もプラスして送ってくれ、一気にこのグ
ループに惚れ込むことになった。
 曲のしょっぱなから私の心は陽気に弾む。ラテン系の乗りだもんね。
 ところで、歌の良さって何なんだろう。
 同じように言葉を扱っているのに、詩では駄目で、小説や漫画や映画
でも代わりになれない歌の価値って何なんだ。
 ラ・コンパニー・クレオールの曲の一つを試しに訳してみる。
「仮面舞踏会で彼女は踊る、
 仮面舞踏会で。
 彼女はやめられない、オエ、オエ、オエ、
 踊りをやめられない、踊りを、踊りを、踊りを」
 ・・・。はっきり言って興醒め。
 しかし、である。
 曲に乗ると、この陳腐な言葉達がきらびやかに輝き出すのだ。
 そうかあ。歌の魔力ってそういうことだったのか。
 今頃ようやくわかった私であった。