褒められた

 美容液をたっぷり含んだシート状のマスクを顔全体に貼ったら、能面
を保つ。
 普段そういうお手入れをしない私でも、そのぐらいは知っている。
 だから、店頭で特別のお手入れをしてくれるというので予約して行き、
私の顔にマスクを施したあと、美容部員の口から、
「顔が小さいですねぇ」
 と言葉が出ても、白マスクの私は無反応。
 それでは物足りないのか、
「端が余っているでしょう。お客様の中にはいっぱいいっぱい使う方も
いらっしゃるんですよ」
 駄目押しのように言われ、その様子を想像したら、思わず吹き出し
大笑い。
 マスクがよれてしまった。
 過去にも、顔が小さい、と言われたことがある。
 職場に出入りしている保険のおばさんから、菊さんは遠くからでも顔
が小さくてすぐわかる、と言われたのだ。
 けど、今回を含めてたった二回。
 なんで、友人知人はみな無視なのかなあ。
 足の長さは顔の大きさよりも自覚しやすい特質だが、やっぱり友人知
人は言及してくれない。
 例外はなし、という事実から、そうか、ちゃんと気づいているけれど
口にしたくないんだ、と女心を学ばされた。
 化粧や美容整形、マッサージ、ハイヒールで努力する私達。
 生まれつきの運にあぐらを掻いているあなた。
 気に喰わない。
 そういうことかも。
 でも、私はモデルになっていないし男性にもそんなにもてないので、
思ったことを素直に言ってくれもいいんじゃないの、とは思う。
 もっとも、褒めてもらえなくても、ふて腐れない。本当は心の中で羨
ましがっているんでしょ、と自意識過剰の妄想で優越感に浸らない。
 日々ほとんど意識することがなく、心は実に穏やか。
 だもんで、思いがけなく美容部員から話題にされ、それもマスクが余
るという意表を突く意見を言われたら、謙遜するという社交術も忘れて、
笑いが弾けた。
 そう言えば、足の長さを指摘してくれるのも、やっぱり店員だ。
 店員は、客の足の長さというより腰の位置を見て、この客にはこのサ
イズ、とすばやく目算して、接客するらしい。
 その職業的観察結果を、
「お客様は足が長いですね」
 と伝えてくれる。
 褒めて私をいい気にさせるのが目的でないから、店員は平気で言うし、
私も普通に頷く。
 ここに、褒めて褒められる最良のあり方が見つかりそうだ。
 誰かを無邪気に褒められない時、心の中には相手と張り合う気持ちが
渦巻いている。
 そんな心の動きを、なぜ、と見つめられたら、自分の心をしっかり掌
握できる自分自身になれるのではないか。