人混みに身を置くのは新型コロナを思うと避けたく、初詣は行かないこ
とにしていた。
十日戎は福笹の授与が一月末まで延長されると神社が発表していて、あ
りがたいが、本来の期間をはずれた時に古い笹を持って交通機関に乗った
ら周りに迷惑をかけそうだなあ。
掃除も正月料理の準備も終わった大晦日の午後三時。
ふと、氏神さんの大祓式(おおはらえしき)に間に合うかも、と閃いた。
笹を納めさせてもらうこともできよう。
小さい神社なので、長椅子が縦横に三列ずつ。五分ほど前に始まったよ
うだったが、そっと入り、入り口すぐの一番後ろの端に座った。
斜め前には三歳ぐらいの男の子とお父さん。
その子は身体をよじったりしてその場で自分でできる最大限の退屈しの
ぎにいそしむが、声は出さない。
良い子。
振り向いた彼と目が合った。
私は、マスクのせいで顔芸ならぬ目だけの芸になるけれど、思いっきり
表情を作った。
理解した彼。
彼が振り返ると、私は目をつぶったり、あっちの方向を見たり。
神事のさなかに、二人の遊び。
私の場所から宮司の動きの大半は見えないが、そういう時間は自分の内
を見つめる良い時間になる。でも、目の前の子がぐずらないよう力を尽く
せたらいいと肚を決めた。
四十分ほど経ち、彼が「おしっこ」と父に訴え、たしなめられたが、立
って父の前を横切ろうとする。
彼の足はずっと床についていなかった。電気カーペットで足が温まるこ
とはなかったのだ。
そのタイミングで式の終わりが告げられ、彼らは、いの一番に出ていっ
た。
境内で、彼らがトイレから戻ってくるのを見かけた。
だが、石段を降りる時にはいない。
帰り道。
外で遊び回る子達の中に、道を歩きつつ振り返る子がいる。
あの子だ。
彼が何度も振り返るので、私は手を振った。
すると彼も。
このまま同じ道を行くのかなあと思ったら、彼らは道を渡った。
父親が、遅れがちな子を振り返る。
男の子は道の向こうから大きく手を振り、
「バイバイ」
と叫んだ。
彼のマスクは、式の途中から自然に顎の方に落ちて、そのままになって
いる。
私も、
「バイバイ」
彼がまた、
「バイバイ」
私はマスクをはずして大声で、
「バイバイ」
父親は怪訝な顔で男の子を見ていた。
オレンジ色の夕日を浴びながら、私は心がほっこり。
神様は、直接私達に接してくることはない。
必ず、誰かを介する。
あの時あの子は神様だったのだ、と思った。