古都で山歩き

 京都や奈良、と言ったら神社仏閣。
 誰がそう決めつけたのだろう。
 それらも、ある。
 けど、それだけではない。
 が、東京在住のフランス人は京都や奈良はそれしかない、と思い込ん
でいた模様。
 大阪出張なので会わないか、と電話がかかってきたので、
「たまには昼間観光するのはどう」
 と京都や奈良を挙げたら、難色を示されたのだ。
 金箔のお寺や、どでかい大仏様は、外国人観光客に人気の定番。
 それはいいのだが、ニホンに長く住んでも外国人と言うだけで、相変
わらずニホン人は、京都奈良、じゃあ、あなたがまだ知らない神社やお
寺に行きましょう、と発想するのかも。
 現に私が大阪ではなく京都か奈良を提案したのは、彼が外国人だった
から。
 ただし、意図は違う。
 関西は山が里に近い。低いけど。でも、だからこそ、日帰りで、近く
て低い山に登るという自然派の遊びが豊富なのだ。
 山から降りたらすぐに観光地。ホテルも近い。
 そんなこぢんまりした町のサイズが私は好き。
 でもお寺は・・・。最後に拝観したのはいつだろう。
 桜の花を追って、京都の嵐山から祇王寺、広沢の池あたりまで歩いた
時も、お寺から出てきた人に「どうでした」と聞いたりしたけど、結局、
どこにも入らなかった。
 大学時代にバスガイドのアルバイトで京都奈良のめぼしいお寺は客を
案内して一応堪能できたからかもしれないし、その気になったらいつで
も拝観できる地の利のせいもあるだろう。
 お寺は、私にとって小さな美術館。入館料を払い、貴重なふすま絵や
見事な庭を愛でさせてもらう。
 神社は、そこに身を置くだけで心が清められる神聖な場所。歩いてい
る途中にあったら、お参りする。
 そんな感じよ、と熱心に語ったのは、私が京都か奈良を歩きたかった
からなのだが。
 作戦成功。
 彼はその気になってくれ、出張の前日に京都入りしてくれることにな
った。
 鴨川沿いをぶらぶら歩くのでもよかったが、すぐ近場に本物の自然、
という立地をこの際ガツンと実感してもらおうと、外国人に人気の伏見
稲荷大社を山頂まで登るか、大文字山登山の二つを提案。
 彼は大文字山を希望した。
 蹴上から大文字山山頂を通って銀閣寺に降りる山歩きは、私がいつか
歩きたかったコース。
 ただ、彼の京都入りは昼になる。
 午後からの山歩きということで、歩きつつ、先を急ぐ気持ちになる。
 それが理由だとは思わない。
 が、私は早々に足をつり、山を降りたら銀閣寺前、というありがたさ
に胸打ち震える事態になったのだった。