熊野古道は、どこの国

 二泊三日の熊野古道
 宿や日程を決めるのは私。誰かとどこかに行く時は、なぜか、いつも、
どこを訪れ、どう回るかを決めるのは私に一任される。
 それにしても、今回は手こずった。
 バス停に着いてから、次に来るのに乗ればいい、という姿勢だと、その
日のバスはもうない可能性がある。
 最悪タクシーで、というのも無理な山の中。
 車の旅は融通が利いていいなあ。
 初めて、そう思わされた。
 初日は、列車到着後、バスの乗り換えまでに十分ほどしかない。
 間に合うのか。
 指定席券を確認に来た車掌に訊ねたら、大丈夫だと言われるが、ちゃん
とバスに乗るまでは不安が尽きない。
 が、そのバス停で予期していなかった驚きに襲われた。
 外国人の方が多い。
 途中、トイレ休憩があり、一応行ったら、個室のドアの左右に動かす鍵
は「close」「open」。
 バスに戻ると、登山リュックの白人男性四人が運転手に何やら聞いてい
る。通訳を引き受けたら、ここから乗れるか、降りたいのはここ、と言う。
下車希望のバス停は観光に無関係な場所なので、何度も聞き返してしまう。
でも、スマホを見せて、そこに行く、と言われる。
 一体、どういう旅を計画しているんだろう。
 なんか、日本人の私より大胆な気がする。
 翌朝、宿の人にそう話したら、
「なんにも考えていないんですよ」
 漆黒の夜。車道の脇に人が横たわっているのが見え、ぎょっとして車を
止めたら、白人女性が泣いている。バスがなくて宿に行けない、と言うの
で送ったことがあるが、道端で夜を明かす者がいるし、ヘッドライトで夜
の山中を歩く猛者もいる。
 体格の良い彼らが登山リュックを背負っているのを見ると、聖地巡礼
はなく、山を制覇しに来たみたいに見えてしまう。
 もっとも、私も山歩きが主で、そのご褒美に神社が待っていてくれる、
という感覚だから、偉そうなことは言えないんだけど。
 フランスのテレビが、夏のモンブランの登山客の人口過剰を報道してい
た。
 滑落して死ぬ人も出てきたので、入山許可証は必須。
 が、それなしで登ってくる人がいるし、履いている靴、その裏につける
滑落防止のアイゼンが役に立たない低レベルだと指摘される人もいて、山
を甘く見る人はどこにも一定数いるんだなあ。
 熊野では、古道を歩きつつ、脇から伸びているシダ類に平気で手をさら
さらと当てる者もいるし。
 私の友のことだ。
 そう。友は外国人比率の高さに一役買っていた。