判断ミスは、重なる

 たかだが四百六十五メートルの大文字山
 山歩きのルートは幾つもある。
 中でも銀閣寺から大文字焼きの火床までの往復は、地元の人達にとっ
て若干急な山道を散歩する程度の感覚なのだろう。チワワ連れで涼しげ
な表情で火床に到着した女性がいたし、夕暮れ間近なのに早足で駆け登
ってくる学生達とすれ違った。
 私達がたどった蹴上から山頂、火床を経て銀閣寺へと下るコースは、
距離が長いが、やっぱり初級者コース。
 でも、私は両足がつり、それをかばって両太ももの前側が鉄板のごと
く突っ張って、一足ごとに鋭い痛みに襲われ、這々の体での下山となっ
た。
 何がいけなかったのか。
 帰宅してからインターネットで検索。
 高い山で足がつったらヘリコプターで救助してもらうこともあると読
んでも、軽蔑できない。
 汗を掻いて水分が失われる際、塩分だけでなく、カルシウム、カリウ
ム、マグネシウムなどの電解質も失われ、疲労物質が蓄積して疲労した
筋肉に痙攣が走るというメカニズムが解明されているらしい。
 疲労・・・?
 歩き始めて一時間足らずで足がつったんだけど。
 ただ、朝、おにぎりを作るついでにご飯をつまんだだけで、いつも食
べているバナナを食べなかったし、豆乳を飲まなかったし、山歩きの時
はスポーツドリンクを飲むのに、この日は緑茶ばかり口にしていた。
 塩分補給に絶好のおかきも、山頂に着くまで食べなかったし。
 自分のからだに聞いて選んだ行為は、ことごとく、足よ、つれ、とい
う目標に向かって一直線だったのだ。
 ところで、足がつってしまっても、その時点で適切に処置すれば大ご
とにならないそうな。
 とにかく立ち止まり、痙攣した部分の筋肉を温め、ゆっくり伸ばして
緊張をほぐす。
 確かに、私も、最初は、あるかなきかのかそけき違和感だった。でも、
夜中に足がつったら爪先を膝の方に引き寄せると治るので、山を登り続
ければ歩きながらその動作を行なうことになる、と無茶な類推をした。
 これからは、乾燥バナナ、おかき、スポーツドリンク、ホカロンを山
歩きの常備品とし、足がつった人に出くわしたら、乾燥バナナとホカロ
ンを提供してあげよう。
 ところで、「冷え」も足がつる大きな要因らしいが、これは私には無
関係、と真っ先に排除。
 これがこの日最大の判断ミスだったと、後日、気がついた。
 山から降りてなお、とどめの判断ミス。
 正しいつもりで的をはずし続けたあの日。
 そんな星回りの日だったのだろうか。
 呆れすぎて、苦笑しかない。