Kは、このKだけが正しいんですと

 二月二十九日に文化審議会国語分科会が、常用漢字の「とめ」「はね」
「はらい」などを正書法に則(のっと)らなくてもよい、とする指針を
とりまとめたそうな。
 小学生の頃。
 漢字は正書法の書き方を習い、直後の書き取りの試験は習熟度を見る
ためだから、もちろん、習った書き方以外はバツになったであろう。
 が、そのあとは、習ったのと違う「とめ」や「はね」で書いても減点
にならなかったはず。
 だから、この指針は、一瞬、理解できなかった。
 官公庁や金融機関の窓口で名前などを記入する際、正しい「とめ」や
「はね」で書き直すよう指示されることがあるが、もうその必要はない、
と通達するためだとわかると、自己流の書き方が身に付いてしまった大
人になってからも、正しさを強要される場面があり得たんだ、と驚く。
 ちなみに、正しい書き方のお手本は明朝体だとか。
 けど、たとえば「む」。
 明朝体だと二画目から四画目まで一筆書きになっているが、Osaka
書体では最後の点は独立している。
 同じ文字でも、書体が違うと、字形が微妙に変わる。
 英語もそう。
 アルファベット専用の書体で比べてみると、たとえばMは、二画目と
三画目で形づくられるVの底の頂点が、左右の二本の縦線の底と同じ位
置まで降りる書体ばかりではない。
 Kは、三画目が二画目の線上から出発する書体と、一画目と二画目の
交点から出発する書体がある。
 Gは、CとTで構成した文字となることもあれば、そのTの一画目の
真ん中から右半分がない形になる書体もある。
 どれも正解。
 ところが、個人的に英語を教えている中一が学ぶ中学校では「正解は
これのみ」という教え方をし、直後の試験以降もそう書かないと細かく
減点するという執拗さで画一化を強要され続けると知り、愕然とさせら
れた。
 英語を正式に学ぶ初っぱなのアルファベットで、英語圏では普通に許
容範囲の書き方なのに、減点という手段を使ってまでニホンでのみ唯一
と決められた字形を押しつけられたら、そう書けない子は、そのあとに
続く、単語を覚えて文章を作って喋れて聴けて・・・という道に楽しさ
を予感できるだろうか。
 所詮は外国語。でも、使いこなせたらきっと役に立つ、と信じて学ん
でもらいたい学科で、厳格になるべきはそんな些末な部分なのか。
 英語ができる子を増やしたいと言いつつ、英語嫌いを作っている気が
する。
 でも、生きる基本のニホン語に関しては、国が寛容さを示してくれた
から、それで十分かも。
 大切なのは母国語だ。