働く喜び

 二十六歳の営業職の男性が出張先のビジネスホテルで急死したが、労災
と認められず、遺族の不服申し立てで労災が認められることになった、と
いう記事を読み、フランスの事例を思い出した。
 キーワードを入力。
「フランス 出張先 女と寝ていて死亡 労災」
 続々と見出しが出てきた。
 そうそう。性行為は「シャワーを浴びたり食事をするのと同じ普通の活
動」だと主張したというその内容に驚かされたのだったなあ。
 そして、裁判官が、フランスの法律では、出張中の出来事はすべて、雇
用主の責任になる、と見解を示したことに関しては、
「ほおっ・・・」
 困惑する私は、滅私奉公の日本式社会に毒されているのか。
 でも、ホテルで一夜限りの女と情事中に死んだのは、さすがに仕事中と
は見なせないと考え、私が遺族なら労災申請なんて思いもつかないだろう。
 私はもとの記事を探した。
 すると、確かにフランス語でも、性行為は「シャワーを浴びたり食事す
るのと同じ」行為、と書かれていて、目新しい情報はそれが起こったのが
2013年だったことぐらい。
 私の頭に疑問符が。
 これって、性行為は日常的にあって当然で、浮気も不倫も良し、と言っ
たことになるよね。
 それでいいのか、この場合は妻よ。
 が、この控訴を行なったのはその妻だったとしたら。
 夫に裏切られたと怒り狂っても死んだ人は戻ってこないから、労災認定
で損害賠償金を手にしようと頭を切り替えたのか。
 それはそれで、すごい。
 フランスは労働者と経営者が敵対関係になるが、労働者は手厚く守られ
ているんだなあ。
 黄色いベスト運動はしぶとく続いているし、今は恒例のストの季節。
 一方、日本では、過労死ラインを越える時間外労働が続いていたのに、
労働基準監督署は「移動時間は労働時間ではない」という主張で、二十六
歳の男性は病気で勝手に死んだことにされかけた。
 毎月、車の走行距離は五千キロに達していたというのに。
 こきつかわれ、死んだら自己責任と突き放され、一体、どこに働く喜び
がある。
 弱い者、立場が下の者は、その場所にいるからいけないのだ、と言わん
ばかり。
 そんな論理がまかり通る国の未来を率先して担いたい人はいるのか、な
どと思っていたら、今朝は、不正入国したペルー人の夫は先に強制送還、
残る母親と娘、息子が、今回、在留特別許可を棄却されたというニュース。
 誰に、どう、国の未来を託したいんだろう、この国は。