偶然の再会

 昔、友達とスキーに行き、夕方、裏道を歩いていたら、こちらに向かっ
て地元の人がくだってくる。
「あ、ああ」
 何度も教えてもらったスキーのインストラクターだった。近くで喫茶店
を営んでいるが、冬場は経営を妻に任せている。私は、昼食をその喫茶店
以外で食べたことがない。
 夕食後に喫茶店の明日の仕込みを手伝いに来ないかと言われて承諾し、
別れた。
 まるで近所の知り合いみたいな会話だったと友に驚かれた。
 このインストラクターの奥さんとは大阪の地下街で遭遇した。
 終電間際、左右の店のシャッターは閉まり、人影はまばら。
 向こうから来る女性の胸に小さなダイヤモンドが光っているなあと見て
いたら、奥さんだ。
 実家が大阪で、帰ってきたと言う。少し話して別れた。
 家の近くに小さなスキー場がある男友達とは年賀状を送り合うだけの関
係になっていたが、私のパリ在住中に、フランス・アルプスの案内カウン
ターで出くわした。
 彼は、何年かに一度は仲間と海外スキーに行くのを奥さんに許してもら
っていると言っていたなあ。そして、安くあげるためにコンドミニアム
泊まると。
 私は、普段は高級ホテルが集まる谷に泊まっていた。旅行代理店の担当
者の「どうせなら」の言葉を否定しなかったら、滞在型ホテルは、宿代と
毎晩の夕食の質が比例すると実感させられ、以来、料理の味には妥協でき
ず、そのホテルを定宿にする贅沢を自分自身に許すようになっていたのだ。
 でも、パリから行く二度目のスキーの時は、一度目の時に知り合ったイ
ンストラクターが、ホテルは無駄に高い、コンドミニアムを所有するパリ
ジャンに安く泊めてもらえと紹介してくれたので、それまでは一日スキー
遠征の途中に立ち寄るだけだったその谷に滞在し、自炊することになった。
 年始年末という時期は、日本から行くのであれば絶対に選ばない。
 それに、案内カウンターに行く時刻が五分でもずれていたら、会えなか
った。
 小さな偶然が重なっての再会。
 とは言え、一日滑ったあとで疲れているし、彼の友達の姿も見えるので、
ちょっと話して、別れた。
 そう。
 どこで誰と出会っても、その偶然にことさら意味を見い出さず、短く会
話して、別れる。またすぐ会えるみたいに。
 スキーに絡んだことばかり書いたが、この手のことはよくあって、いち
いち驚いていられないのだ。
 こういう話をすると羨ましがる友がいるが、それは違うと思っている。