鈍くさい

 今日中に図書館に本を一冊返す必要があった。手渡しで。別の市から融通
してもらった本はそういうルールなのだ。
 しかし、最優先の用事があり、朝十時の開館と同時に返しに行ってからで
は間に合わない。
 用事を済ませ、一旦帰宅してから、図書館に行った。
 本を返し、予約の本を借りて帰るつもり。
 貸し出しカードがない。
 朝、荷物が多くて、貴重品は別のバッグに入れることにしたが、このバッ
グ、小さすぎて長財布が入らない。三つ折り財布に必要最低限のカードを入
れた。図書館の貸し出しカードも入れたのは、一旦家に帰ってトートバッグ
を置き、返す本を持って、すぐに家を出る場合を想定したのだ。
 実際には、帰宅後、長財布にカード類を戻した。その時、一箇所、カード
が入っていない場所があり、変だと思ったが、突き詰めて考えなかった。
 その迂闊さが、図書館で本を借りられないという現実となって表われた。
貸し出しカードは三つ折り財布に入ったままだったのだ。
 取りに戻る気力はない。諦めた。
 気力はなくても取りに戻ったことはある。病院から薬局にファックスで処
方箋を送ってもらった時だ。
 やはり一旦家に帰り、不要な荷物を置いて家を出たが、不要と見なした荷
物の中のファイルに処方箋を入れていた。
 途中まで歩いて気がつき、戻った。
 ところが、薬局の窓口で処方箋を出そうとして、
「あっ」
 持って出たのは保険証など病院関連の物を入れたポーチで、処方箋を挟ん
だファイルではなかった。
 処方箋は発行日から四日以内は有効ゆえ、翌日来れば済むことだが、妙に
意固地になり、もう一度家に取りに戻って、今度こそ、「三度目の正直」。
 叔母もこの手の失態をしたと電話でぼやいた時、私のこの体験を聞けば、
そんなのたいしたことがないと思えるだろう、と話したら、
「菊さんは若いから三回も往復できるんや」
 変化球の反応が返ってきて、私は何も言えない。
 腕時計の電池が切れた時は、行ったこと自体が無駄だった。
 店員が預かり伝票に腕時計の裏の刻印を書き始めてから、
「あっ」
 書く手を止めた。
 竜頭が時刻合わせをするために引いた状態になっている。そのせいで時計
が止まったのではないか。
 手に取り、押し込んでくれたら、普通に動いた。
「私は何もしていないのに」
 言いたいけれど、私しか使わない腕時計だ。気づかず何かに竜頭を引っ
かけたのだとしても、その行為の主は私。
 めげるなあ。
 みんな、大なり小なり、こういう経験はあるのかなあ。
 頻度は。