白黒映画

 テレビで古い映画を観るが、見始めた頃は、白黒映画だとわかると、消し
た。
 が、ある時、消さずに観てみたら、映画のストーリーに心惹かれて最後ま
で観てしまい、以来、白黒でも平気。それどころか、黒と白だけで表現する
ための工夫にも目がいくようになった。
 こんな私だからだろう。
「白黒映画を観ると気分が悪くなる」
 と言った学生がいて驚かされた、とどこかの大学教授だったかが書いてい
るのを読んでも、むしろ、その学生に共感できた。
 馴染みがないと、白黒映画というだけで、陰気くさい。
 日本人なのに崩し文字を習わなくなって久しい私達は、展覧会で国宝の源
氏物語絵巻を見ても、そこに書かれた日本語を読めない。
 一部、興味のある人だけが専門家なればいい。
 そうなのか。
 それでは日本文化の継承が途絶える、と危機感を覚えた人はいるようで、
崩し字をAIで解読する認識アプリが出てきて、垣根がぐんと低くなった。
 興味を持てば、道は開かれる。
「白黒映画は吐き気がする」と言った若者も、いつの日か、白黒映画を観る
必要に迫られ、そのままのめり込むかもしれない。
 今の意見が後生続くとは限らないのだ。
 でも、日本の白黒映画は、私は、たぶん、ずっと嫌い。
 戦争物が多いからというだけでない。
 私ですら知っている、
「欲しがりません、勝つまでは」
 の標語が人口に膾炙していた戦時中を描くとしても、この標語を諧謔仕立
てで楽しく揶揄するような痛快な映画はないからだ。
 全編、主人公以下、皆、生真面目で、体も心も直立不動、という印象。
 これが欧米の映画なら、上司も部下も人間味があるし、主題歌は「僕が帰
るまで浮気せず待っていてくれ」というような歌詞だったりして、戦地の兵
士は普通はそう思うだろうなあ、と思わせてくれる。メロディも明るい。
 映画は虚構。
 現実に背を向け、夢を描いたらこうなったのかもしれないが、ならば、日
本の映画は、非現実的な夢を描いても、硬直した倫理観を押しつけてくるだ
けなのか。
 そこにげんなりさせられ、映像が白黒だと、色のない陰気さに、さらに拒
絶感が掻き立てられることになる。
 この場合、今の技術でカラー化しても、拒絶感は消えない。
 要は、内容。
 ところで、私は、海外の映画やドラマをいきなり観たら、人の名前や関係
性が理解できなくて話についていけないので、事前にあらすじを読む。
 が、詳細に書いてくれていると散漫だし、短いとよくわからない。
 あらすじの名文に未だ出会えたことがない。