劣等感

 私は足が長い。
 あはっ、言い切りました。
 でも、事実みたいだから。
 んん。ここは語尾をぼかすのかい、私。
 もしこの世に私一人きりなら、私の足が長いのか短いのか、判断でき
ない。パンツを買う時、裾上げした試しがないので、この国の標準より
は足が長いのかも、と推察されるだけである。
 さて、私は足が長いとしよう。
 これが長所であるなら、長所で勝負すれば楽勝なので、私はもうパン
ツしか履かない、と決め、去年の秋、パンツを二枚買った。
 が、スカートを履きたい。
 金持ち自慢がとまらぬベンツおじさんは、なのに事務所の暖房をケチ
り、一時間ほどで、ブーツを履いていても爪先から冷える。古い事務所
は断熱材が使われていない模様。
 だが、ムートンブーツ旋風が到来した。
 人気のオーストラリアのブランドのは、顔がでかいし、カジュアルす
ぎるので、体温で発熱するという日本ブランドの細身のブーツを買った。
 ベンツおじさんの事務所訪問用のつもりが、暖かくて、冬はもう、す
べてこの手のにしたいぐらい。
 ブーツの中にパンツの裾を入れ込むより、厚手のタイツの方が合いそ
う。
 そして、膝丈ぐらいのスカート。
 ところが、見事に似合わないのである。
 新春の箱根駅伝でアナウンサーが、走者の一人を、足の筋肉がよい具
合に発達していて、走りが安定している、というように評した時、気が
ついた。
 私は、太ももが張っているし、ふくらはぎも、もりもり。
 脚の曲線に強弱がありすぎて、変に存在感が出てしまうのかも。
 でも、健康に生きるための筋肉量は確保できているってこと。
 長い目で見て足の太さをありがたく思うのなら、スカートは潔く諦め
るべきか。
 すると、足の長さをパンツでさりげなく見せびらかすのを我が黄金の
ファッション戦法としていたことが思い出され、私ったら何を無意味な
堂々巡りをしているのやら。
 わざわざ欠点に目を向け、人並みのレベルでないことを嘆くだなんて。
 無い物ねだり。
 自信喪失や劣等感しか生まれないのに。
 ムートンブーツを目にする機会が増え、洗脳されたのか、いかつさが
可愛く見えるようになり、オーストラリアのブランドのを、セールで一
足買うことにした。
 スキニーパンツが合いそう。
 けど、体の線が出るのはエロくなりそうで、私は永遠に却下だな。
 するとまた、ああ、似合うスカートがあれば・・・と自己嫌悪の道に
一歩足を踏み入れそうになる。
 人は、自分の駄目なところを悔やむのが好きなのか。
 変態じゃん。